増える”共進化”企業


毎日新聞No.5 【平成10年7月9日発行】

~地域社会とともに発展~

 企業と企業環境の新たな関係性の構築「共進化の時代―企業と企業環境の新たな 関係性の構築」(国民経済研究協会)という報告書が出された。PL法(製造物責任 法)などに象徴されるような企業と社会との敵対的関係ではなく、企業と企業、企 業を取り巻く消費者や地域社会、行政機関、NPO(公共サービス等を行う民間非営利 組織)などの社会環境との共存関係を構築することを目指したものだ。ここでは、社 会がなければ企業も存在しないという認識の下、自己変革を遂げつつ、企業環境と の対立を未然に解決し、社会とともに発展していく企業を「共進化企業」と呼んでいる。

 共進化という聞きなれない言葉は、生物学に由来する。特徴的な例として、花と 昆虫の進化の関係性がある。単純な形態の花には、多数の種類の昆虫が訪れる。一見 すると多くの受粉が行われるように見えるが、花粉を運ぶ役割を期待している昆虫、 特にカミキリムシなどの甲虫類に花粉の一部は食べられてしまう。一方、高度に特殊 化した長い吻(くちさき)をもつハチやチョウなどは、自分たちしか吸うことができな い複雑な形態をもつ花からみつを吸う。これらは、長い吻のため花粉を食べることは できない。こうすることによって花は、少ない量の花粉で受粉ができ、昆虫もみつを 確実に得ることができるのである。実際にランなど高度に進化を遂げた花で特定の昆 虫による受粉が行われている。昆虫の吻が花みつの出現とともに進化し、花は咲く時 刻や花みつの組成などを特定の昆虫に合わせて進化させ、同時にその形状を複雑化さ せてきた。まさに、相互利益と相互依存のバランスによって共生関係を進化させてき たのである。

 さて、企業と企業を取り巻く環境はどうであろうか。経済企画庁が1月に実施した 企業行動に関するアンケートによると、日本的企業間関係を支えてきた系列グループ 企業等との取引関係に選別の動きが強まるとする企業が増えている。企業の社会貢献 活動も、地域の社会問題解決への協力意向が強まる状況がある。今後、自己変革を遂 げつつ、地域社会とともに発展していく「共進化企業」が増えてきそうである。

(山梨総合研究所主任研究員・窪田洋二)