公共交通の再生を図る
毎日新聞No.6 【平成10年7月16日発行】
~路線バスの走るまちづくりを~
先日、山梨交通バスが全国にもまだあまり例のない二つのサービスを開始した。 一つは一部区間の初乗り料金を値下げするものであり、二つめは60歳以上を対象 に全線乗車可能の定期券を発行するものである。
このように、新しいサービスが登場することは、歓迎すべきことである。 しかし、『利用者離れ』にはなかなか歯止めがかからない。私たちの『足』である 路線バスを維持するにはどうしたらよいのだろうか。
まず、公共交通機関であるバスの維持は、福祉問題であり、教育問題であり、 地域社会自体の存続問題であることを今以上に認識する必要がある。高齢者らの 『交通弱者』を考えれば、路線バスの運行は採算面だけでは議論できない事業である。 無論、補助金で存続させればよいというものではない。中富町では路線バスに代わり 町営バスを運行しているが、利用者が増え、黒字経営である。自治体は、路線の廃止 提案がなされた時こそ、町づくりを考え、公共交通機関の再生を図る絶好のタイミン グととらえることが必要であろう。また、私たち住民は、個人の便益を削ってもバス 優先レーンの拡大等全体の利益を優先することが必要な時期と理解する必要があろう。
一方、バス事業者には、更なるアイデアを求めたい。たとえば、2系統以上運行 する路線では重複区間で利用しやすい等間隔のダイヤ作りが、朝雨天の場合はバスの 増発ができないか。既に他県で実施されている例である。みんなでアイデアを出し合 い、試行についてはパークアンドバスライドのように自治体もかかわっていくことが 必要である。
現在、路線バス事業は全国で9割が赤字であり、山梨交通バスの利用者数も10 年前の半数以下である。さらに、運輸省は2001年までに路線バス事業の需給調整 規制を撤廃する予定であり、新規参入だけでなく撤退も自由となる。『歯止め』をか けることは容易ではない。しかし、私たちの積極的な行動が、渋滞を減らし、快適で 便利なバス運行を約束し、地域社会の存続を維持する一助となろう。
(財団法人山梨総合研究所主任研究員・村田俊也)