多様な発想出る体制


毎日新聞No.7 【平成10年7月23日発行】

~規制緩和で「立体的な戦い」へ~

 全日本プロレスの三沢光晴選手がこんなことを言っていた。   

 「プロレスは立体的な戦いができるから、小さい選手でも大きい選手に勝つこと ができる。」

 プロレスでも大型選手が有利なのだろうが、技が制限されているボクシングなどと比べ、小さい選手が大きい選手に勝てる可能性が高いということなのだろう。

 だが、小が大に勝てる、というのはプロレスの世界だけではない。 

 例えば、アメリカの銀行業界だが、1980年代半ばから銀行の再編が進んできた。 2000年を前にした今となっては、地方の小銀行は大銀行へと再編されてしまったん じゃないかと思われたのだが,どっこい、小さい銀行ながら業績を伸ばしていると ころもあるそうだ。地元密着の利を生かして融資の審査を迅速にしたり、銀行に来 られない高齢者のため、老人ホームに支店を開いたり、知恵を絞って奮闘している のである。

 多様な発想と小回りがきく体制を生かし、大手相手に「立体的な戦い」を仕掛 け、互角以上の試合を行っているというわけだ。

 だが、立体的な戦いをするには、それを許すルールが必要である。 プロレスでは投げる、打つ、ける、跳ぶという多様な技がルール上許されている。 アメリカで、多様な発想を事業という形に変えることができるのも、さまざまな規制が 緩和されている故であろう。だからこそ、巨大企業の傘下にはいらず、小さいままで やっていこうという発想も出てくるし、新しい企業を起こそうという気も起きる。 たくさんのルールに縛られ、手数が限られていては新興企業や小さい企業には勝ち目 がない。勝ち目がない勝負を挑むものは少ないだろう。

 ところで、日本では、今年上半期の企業倒産状況は過去最悪だそうだ。早く、 多様な発想が出るような体制を作り、その発想を生かせる規制緩和を行って日本企 業の活力を取り戻すことが望まれる。 

 そうしないと、アメリカという巨人にKOされるだけでなく、経済規模からいえ ばかなり小さいアジア諸国に立体的な戦いを仕掛けられ、スリーカウントを食らうか もしれない。

(財団法人山梨総合研究所研究員・坂村裕輔)