歩み出す分権型社会
毎日新聞No.10 【平成10年8月13日発行】
~求められる送り手の職員~
地域のことは地域で決めて、自らの判断で責任を持って実行するという、 本来の地方自治・住民自治の実現が望まれている。そのために職員には今以上 に政策形成能力の向上が、また、自治体には人材の育成や確保が求められている。
さて、私は4月に町役場から当研究所に出向してきたが、役場に勤め始め たころ「去年に比べて税金が急に高くなったけれどどうして?」といったこと を近所の方からよく聞かれた。しかし、その業務を担当したことがない限り、 正確に答えることは難しく、「直接、担当課に聞いてくれますか」と答えたこ とを思い出す。住民は何でも答えられる職員を期待していたに違いない。しか し、最近では、役場の仕事が理解されたのか、それとも専門的なことは担当者 に聞かなければわからないということが徹底されてきたのであろうか、直接担 当者に聞くことが多くなったような気がする。
役場は、公益を求めるサービス業だ。職員は、まず住民のことを考え、町 のことを思い、事務事業を進める。「住民は何を望んでいるのか」といったこと を中心にすえて仕事をしていかなければならないのだが、なかなか難しい。機関 委任事務(知事、市町村長及びその他の執行機関に委任された事務。地方自治法 148条)を含めた事務の多様化、制度の複雑化などにより、一人の職員がいく つもの業務を担当しているため、経常的業務に追われ、消化することだけで精い っぱいだからだ。
しかし、地方分権推進委員会の勧告では、これまで国が自治体に行わせてい た機関委任事務を廃止し、その多くを自治体自らの責任で行う自治事務とすること が盛り込まれている。これからの市町村役場も、「忙しい」を言い訳に出来なくな るであろう。
この歩み出した地方分権の成果を十分あげるためにも、市町村職員は自由な 発想や提案ができるように常に問題意識を持ち、研修を重ね、受動態から能動態へ と行動を起こしていくことが求められている。
(財団法人山梨総合研究所 研究員 竹野浩一)