早川・五ヶ瀬・二セコ


毎日新聞No.12 【平成10年8月27日発行】

~価値観生み出すのは地方に~

 先日、日本上流文化圏研究所(早川町)が主催する日本上流文化圏会議が 二セコ(北海道)で開かれた。そのなかで4人の言葉が印象的だった。

 スキーのメッカニセコの逢坂町長「観光は重要だが、有島武郎記念館は観光 拠点とはしない…」
 ▽高知県大方町のデザイナー、梅原真さん、(箱モノ行政について)「わが 町では美術館は造らないという意思統一のため、砂浜美術館を提案した…」
 ▽小樽運河を守る会元会長の峰山冨美さん「小樽は観光業者の街になってし まった。こんな小樽をつくるために闘ってきたのではない、悲しい…」
 20年に及ぶ市民運動により運河を守り年間600万人もの観光客が訪れる 町になったのだが……、
 ▽日本上流文化圏研究所の小俣さん「ミティラーとの交流の中からインド医学 の原点は栄養をつけるのではない、毎日大量の水を飲み老廃物を早く出す”引き算の 思想”にある…」これらの言葉はわれわれに価値観の転換を迫っているように思える。

 戦後間もない昭和22(1947)年、福田恆存は「近代の宿命」という評論の 中で「静止せよ!身体や物は動きをやめないが精神は静止できる」と訴え、経済的な 利潤追求を抑制する因子の必要性を訴えていたことを思い出す。

 振り返ってみるとこの50年は、経済的な豊かさを追及し、アメリカ化を急速に 進め、変化することだけに狂奔してきた。結果として人間も企業も都市もあらゆるもの が飽食となってしまった。そして、これまで日本を支えてきたシステムに限界が見え 始め、政治・経済・社会などすべてが出直しを迫られている。歴史的な転換期を迎え、 いよいよ新たな国づくりに着手しなければならないときを迎えたが、新しい価値観を 生み出すエネルギーは地方に、上流文化圏にあるのではないだろうか。全国から集ま ったおよそ200人の”変化は我々の意思によって定まる”という自信のようなものが 早川、五ヶ瀬(宮崎)、ニセコと続いてきた上流文化圏会議を成功させているように 思えてならない。

(山梨総合研究所 専務理事 早川  源)