社会的実験場の山梨


毎日新聞No.13 【平成10年9月3日発行】

~新たな仕組みの構築が課題~

 山梨県は全国のテストマーケティング地域だといわれてきた。全国に商品を 売り出したり、広告を出す際に、事前のテストを行う社会的実験場だといういうのである。

 たしかに、統計史の世界では、山梨県は国勢調査においても初期の準備調査 が行われた県土として名高い。明治12(1879)年に近代国家の礎をつくるため に、山梨県に30名ほどの調査員を集めて、1ヶ月がかりで県内の人口数、性別、職 業、故郷、宗教、結婚・離婚経験の有無、地所家屋の所有・賃貸状況等を調べてい る。当時の東京日日新聞(毎日新聞の前身)は、事前の想定よりも、結婚年齢が若 いことや生活資材を共同化している村落があったことを報じている。

 第1回の国勢調査は大正9(1920)年10月に実施されているのだから、その 40余年前から調査項目、調査マニュアルの検討、調査費用の算出等の実態的データ を収集したわけである。それが初期の段階において、なぜ山梨県で行われたのか。一 般に言われていることとしては、藩政時代から明治期まで、この地域が一国一藩で推 移してきたこと、地形等の自然条件の状況から地域内の人口動向を把握しやすいと考 えられたこと、東京に近く多くの調査員の長期出張が可能であったということである。

 それから100余年の歳月が流れ、その間にテストマーケティング地域といわれ る時期もあったが、その割には住民と接する調査の企業やノウハウの蓄積が小さいよ うに感じられる。この過ぎ去った時代は、物心両面の東京一極集中が続いた時代であ って、東京は山梨県からも生活情報を奪っただけで、調査企業もノウハウも残さなか ったということだ。21世紀を前に、われわれは山梨県を新たな文化と生活スタイル 形成の社会的実験場として、仕組みを含めて構築するという課題をもっていると言える。

(山梨総合研究所調査研究部長 檜槇 貢)