利用者のニーズに応え


毎日新聞No.14 【平成10年9月10日発行】

~行政は最大のサービス産業~

 これまで「わかりにくい」「融通がきかない」などといわれてきた市役所 窓口などにおける行政サービスが、利用者のニーズに応じたサービス提供を目 指して変わりつつある。

兵庫県伊丹市では、住民票の写しなどの公文書を機械により発行する「自 動交付機」を1991年に全国で初めて導入し、市役所の閉庁する土曜日や、店舗な どでも一部の行政サービスの提供を可能にしている。これは銀行に設置されてい る現金自動受払機(ATM)と同様の機能を有する機械であり、あらかじめ発行 された市民カードを用いて交付サービスを受けるもので、現在までに全国で40程 度の地方公共団体に導入されている。

一方、係員が応対する窓口においても、サービスの向上を目指してさまざま な取り組みがなされている。静岡県浜松市では、従来の事務種類ごとの縦割りの 窓口から、複数の種類の事務を一元化した「総合窓口」への転換が図られている。 この「総合窓口」への転換により、一定の範囲内ではあるものの、利用者が複数の 用事を一つの窓口で済ますことが可能となり、利用者が何か所も窓口を回らなけれ ばならないことや、いわゆる「たらい回し」を減らすことを目指しているものである。

 このように、地方公共団体という地域における行政機関が、より良いサービス 提供を目指して提供手法の多様化や窓口応対の向上に取り組んでいる。ただし、自動 交付機の導入にしても、機械の苦手な利用者にとっては逆効果であることも考えられ、 また、行政記録を機械で取り扱うことから、正確性、プライバシー保護の点について は十分な信頼性を確保していることが導入の前提となる。今後、こうした行政情報化 がますます進展することが予想されるとともに、現在以上にプライバシー保護、公平 性の確保といった行政サービスに求められる基本的な要件を満たしていることが求め られる。

 「行政は最大のサービス産業」であるといわれ、今後も地域においては新たな 行政サービス提供の手法が導入されていくことと考えられる。サービス産業としての 満足度を向上させるためには、利用者のニーズやその変化に応じた行政サービスを提 供していくことがより一層求められているのではないだろうか。

(山梨総合研究所主任研究員・川島 建文)