多元的な経済の構築
毎日新聞No.16 【平成10年10月8日発行】
~豊かで深い地域社会に期待~
悪化する経済情勢の中、新しい主体による経済活動の流れが起こっている。 市場経済システムをグローバルスタンダードととらえ、競争環境を整えるために 規制緩和や小さな政府を求める動きが強くなる一方で、利潤追求型の企業では取 り組めないが社会にとっては有用な事業に取り組む新たな主体が起きている。市 民一人ひとりが資本と労働を持ち寄って組合を作ったり、専門技術を持つ高齢者 が集まって働く場をつくり上げる経済活動であり、新しい経済システム構築への 挑戦ともいえる取り組みである。
「市民事業」に代表されるこうした経済活動は、実はかなり以前から首都圏を 中心に起きているが、雇用情勢等が厳しくなる中で、労働移動等に対するリスク 分散の仕組みとして期待されはじめた面がある。チケット制による家事介護サービ スや在宅福祉サービス、仕出し弁当サービスや洋服リフォームなどを行っている ワーカーズ・コレクティブと呼ばれる企業組合や、ビル管理から配管・配電管理 など専門技術を生かした取り組みを行っている高齢者協同組合のほか、NGO(非政 府組織)による活動の一環としての商品や調査報告書の販売など、さまざまな主体 によって行われている。最近では、女性起業家向けに融資審査と債務保証などイン キュベート(創業間もない企業の自立支援)事業を行うノンバンクが神奈川県で誕 生している。
本県においても、住民自らが起こした企業組合により特産品の生産販売や市民 農園の運営などへの取り組みが始まっている。また、「市民事業」と目的が同様な活 動を行う主体として、NPO団体(営利を目的としない公共サービス等行う民間組織) がある。NPOの活動は、有償サービスも無償サービスもあり、報酬をもらわないで行 動する人、もらって行動する人が混在していたり、株主配当を行わないなどの点か ら、「市民事業=NPO活動」とならない面があるが、「社会をよりよい方向に変える活 動」という点からは同様の活動主体といえる。
このように、利潤追求では消えてしまうが社会的に有用な事業を行う主体が多 数起こってくることは、地域社会においては経済活動の主体が一元的ではなく、多元 的なものになることを意味している。これから、高齢化・成熟化した社会を迎えるに あたって、市場原理だけでない多元的な経済による豊かで深い地域社会が築かれるこ とが期待される。
(山梨総合研究所主任研究員・窪田洋二)