成熟社会に向かって
毎日新聞No.24 【平成10年12月17日発行】
~急がれる生活ビジョンづくり~
10月29日、東京都庁知事特別室で私は8名の審査員を代表して青島幸男都知事に、都民公募の「循環型社会づくりのためのネーミング大賞、アイデア大賞」の選考結果を報告した。青島知事は首都東京を循環型社会にと意気込んでおり、この公募は、市民と行政が一体となる取組みを目指す出発点と位置付けられている。
大賞として表彰されたネーミングは「エコロジー東京」。これがそのまま現在、作成を急がれている東京都循環型社会づくりのアクションプランの表題に決まった。アイデア大賞は、エコシール付きの環境に優しい商品を開発し、その売り上げの一部を地域の高齢者介護費用の財源にしようというものとなった。審査過程で、その実効性に疑問も出たが、行政の縦割りを超える生活者ならではの発想として評価された。
生活者の発想やライフスタイルを地域政策に生かそうという試みは、それほど目新しいものではない。1970年代後半からまちづくり、文化行政、景観行政、国際交流、地域福祉などの取組みが全国各地で始まったが、基本は生活者の視線で地域政策をとらえ直すとともに、地域再生に向けての市民主体の運動を起こすものであった。
この20年の歩みの中では、民間活力が土地投資などに結びつくことで土地利用や公共建築物の整備などにバブル経済の影響をみることになるが、生活者サイドからの地域の見直し、再生の水脈は着実に大きくなった。
たとえば、全国各地で大きな課題とされる中心市街地の活性化は、人の集まる土地利用への転換や商店街の活性化だけではなく、その根源には市民の生活思想やスタイルを組み入れ、次世代に向けて再生させていく志向性が必要だ。また、これからの地域の国際協力や文化発信は、市民生活そのものを売り出すことであり、高齢者の在宅介護、環境リサイクルなどの成功は普通の市民が主役をつとめることによって、初めて可能となる。
12月1日施行の市民団体に法人格を認めるNPO(特定非営利活動法人)法は、市民主体のまちづくりにおける条件整備の一つだが、総人口が減少する成熟社会過程にあって、市民のそれぞれの生活経験から積み上げるビジョンづくりが必至の課題といえる。
東京都のネーミングやアイデアの公募は、従来型の広報などの行政メディアを中心にするものだったためか、期待された市民活動を活発に行っている人々や青年層の参加が少なかった。生活ビジョンは、テクニカルな政策手段でできるものではなく、市民の生活構造やライフスタイルまで踏み込んで進められることが必要だということである。そのためにも、市民生活ビジョンの策定過程の開拓が急務といえる。
(財団法人山梨総合研究所調査研究部長・檜槇貢)