未来のために…


毎日新聞No.26 【平成11年1月21日発行】

~環境ホルモン問題考え禁煙~

 昨年7月に始まった私の禁煙は、年が明けても続いている。我ながら大したものだと思う。最近ではたばこを吸っている人に注意までするようになって、少々煙たがれている。
 禁煙が長続きしているのは、別に私の意思が強いからではない。子供が可愛いからであるし、かなり先になると思うが、孫の顔も見てみたいからである。なぜ子供が可愛いとタバコを吸わないのか。それはタバコの煙にダイオキシン(正確にはダイオキシン類)が含まれているからだ。

ダイオキシンを知らない人はいないだろう。「史上最強の毒物」とも言われている。かつては「発がん性がある」くらいの認識しかなかったが、最近では、「環境ホルモン」の一つであることが、ダイオキシンの悪名を一層知らしめることになった。

「環境ホルモン」も知らない人はいないだろう。カップめんの容器をめぐってもその名が取りざたされた。 外因性内分泌かく乱物質と言うとわかりづらいが、要するに環境ホルモンが侵入すると、オスのメス化といった生体異変や、生殖活動そのものに悪影響が出るらしいのである。

 この「らしい」と言うのが環境ホルモンの非常に嫌らしいところで、例えば、「人類の精子数の減少は、環境ホルモンが原因」とは、今のところは断定できない。だから、安易に環境ホルモンを語るわけにはいかず、過剰報道などという批判も出てきている。環境ホルモンとしてのダイオキシンの研究も、最近はじまったばかりなので、いたずらに怖がるのはいかがなものかとは思うが、このまま何もしないのもいかがなものか。

 親から子へ、子から孫へと命を受け継ぐ、つまり種の存続を考えると、ダイオキシン問題は、避けて通ることのできない緊急課題である。

 ダイオキシンは、人類が意識的に作り出したものではない。不用意にゴミを燃やすことや、場合によっては山火事でも発生する。日常口にしている食べ物にも含まれている。空気にも、土にも、川や湖にも、それこそ『ありとあらゆる所』に存在しているので、神経質になりすぎると何も食べられないし、呼吸さえできなくなってしまう。だから、私一人がたばこを我慢したくらいでは、焼け石に水である。

 だが、何も知らずにすやすや寝ている子供の顔を見ていると、ちょっと一服という気分にはならない。人類の未来のためにも…。

(財団法人山梨総合研究所研究員・水石和仁)