山村の魅力論議 ―関東都市学会白州大会報告―
毎日新聞No.35 【平成11年4月8日発行】
~都会のけん騒から放れ~
去る3月12日、13日の2日間、山梨総研の小さなフォーラムとして関東都市学会が白州町で開かれ、20人ほどの都市学者が集まった。フォーラムのテーマは首都東京と白州町を結ぶ「街道と水」であった。1日目は甲州街道台ケ原宿に面する山梨銘醸「七賢」の和室、2日目は名水公園「べるが」の研修室で行われた。都市に住みながら都市を研究する学者集団が、山村地域の白州町に泊り込んで、改めて都市と山村、そしてそのつながりを論じたのである。
車社会全盛の現代において、かつて緩やかに生活と文化をつないできた歩く人の道「街道」とその宿をどう読むのか。食文化、おいしい水がもてはやされる社会にあって、ミネラルウオーター生産量・金額ともに全国の四割以上を提供している「水」生産日本一の山梨県とその関係地域をどう認識すればよいのか。その両者の要素をもつ白州町に対してどのような未来を展望するのか。
都会のけん騒から解放された東京の客人たちは、酒蔵と名水の景観に酔いつつ、山・まち・水への想いを語り、自然環境を軸にする白州町の持続的発展地域としての可能性を論じた。日本都市学会会長の服部銈二郎さんは白州町等の資料からその誇りをたずね、立命館大の佐々波秀彦さんは本場のスイス・アルプスの生活を紹介し、芝浦工業大の石黒哲郎さんは白州町を湧水のまちにすることを提起し、関東都市学会会長の中村實さんは甲州街道サミットを提案した。
早稲田大の浦野正樹さんは、この会議を総括し、(1)水問題にからんで都市が農村を収奪する構造は依然として変わっていないこと、(2)都市人はいかに生きるかかが問われており、中山間地域の農業政策、環境政策とからんでこざるをえないこと、(3)都市と過疎地の新たなネットワークを、人間にとっての意味を問いながら、つくりあげることが必要なことをあげた。都市化の時代の終末にあって、白州町を舞台に都市からの農山村移住とネットワークのはじまりが論じられたわけである。
このフォーラムから1ヵ月近くが経ち、何人もの参加者から手紙が届いている。もう一度じっくりと白州町をみたい、学生とともに白州町の社会調査を行いたい、これからの地域研究の対象にしたいなどという連絡である。
(山梨総合研究所調査研究部長 檜槇 貢)