「知る義務」の確認
毎日新聞No.40 【平成11年5月20日発行】
~PRTR制度の採用は~
情報公開法が成立した。
いくつか問題点は指摘されているが、国民の「知る権利」を実現するものとして(条文中に「知る権利」という言葉がないことが問題だといわれているが。)、成立そのものは歓迎されているようだ。
ところで、情報公開といえば、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」という、長い名前の法律が成立する見込みである。
この法律で「環境汚染物質排出移動登録」(Pollutant Release and Transfer Register)という制度が採用されているが(これもまた長い名前のためか、英語名の略称である「PRTR」の方が広く用いられている。)、これは、人間の健康や、動植物の生育に悪影響を及ぼすおそれがある化学物質の排出量や移動量を、それらの物質を扱う業者に登録させ、その登録内容を国民に開示するものである。
この制度について、環境庁のホームページでは「行政・事業者・市民が情報を共有しつつ化学物質のリスク管理に役立てようとする環境保全のための新しい方法です。」という解説がつけらている。
確かに、業者としても、自分のところで有害な物質をどれだけ排出しているかが、広く知られるようになれば、企業のイメージなどを考え、しっかりと管理をし、有害な物質の排出を減らすため、よりいっそう努力するようになるだろう。
したがって、この制度がうまく機能し、環境保全という目標が達成されるための、もっとも重要な条件は、国民がこの制度を利用し、情報を「知ること」であろう。
環境問題については、さまざま利害がからみ、また、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)などのように、科学的には「なんらかの悪影響がある恐れ」までしか言えないことがらも多いため、行政が直接規制できない面もある。そのため、国民の協力や事業者の努力が最も必要な分野だといってよいだろう。
PRTR制度の採用によって、「知る権利」が確保されるというより、ある意味では、環境問題については「知る義務」あるいは「参加する義務」があることが確認されるともいえる。
(山梨総合研究所研究員・坂村裕輔)