「通行記憶」の情報化


毎日新聞No.47 【平成11年7月14日発行】

~カード記録の新たな側面~

 早いもので東京から甲府に赴任してきて、1年3ヵ月が過ぎた。

東京と甲府の生活で大きく違うのは、やはり電車に乗る機会がめっきり減り、かわりに自動車に乗る時間が増えたことであろう。東京都区内では、ちょっとした移動に地下鉄を利用することが多い。こうした移動には、営団地下鉄が発行する「メトロカード」の利用が便利である。「メトロカード」は、あらかじめ購入して切符代わりに使用するプリペイドカードであり、機能も形状も「テレホンカード」と同様のものである。
特に、切符を買うために並ぶ必要がないほか、直接、改札機に「メトロカード」を挿入するだけで電車に乗れるので、急ぎの際や、手荷物が多い場合などは大変に便利である。
 さて、この「メトロカード」には、おもしろい特長がある。それは、改札機を通過するたびに、カード裏面に、通過日時と通過駅名、課金の状況が印字されることである。こうした印字は、おそらくは、料金収受の確認や、不正使用を防ぐために印刷されるものなのであろう。しかし、利用する乗客からみると、いつ、どこに出かけたのか記録が残ることとなり、カードの無味乾燥な印字の羅列を眺めていると、その時々の記憶がよみがえり、ちょっとした日記の役割を果たしているのである。

 このようなプリペイドカードは、現在では、他の鉄道やバスなど、ほとんどの交通機関に普及している。こちらに赴任以来、自動車の移動のために、有料道路を通行する際に「ハイウェイカード」を利用することが多い。「ハイウェイカード」でも、同じように日付と料金が印字されるが、今のところ通過した地点(料金所)までは印字されないようである。しかし、現在、実用化へ向けて検討されている料金所のノン・ストップ化が実現すると、やはり、通行記録はどこかに残るのであろう。

このような「足跡情報化」社会を迎えて、行動の匿名性に危機感を訴える向きもあるが、「通行記憶」の情報化と捉えると、情報化の異なる側面が見えてくると思うが、いかがであろうか。

(山梨総合研究所主任研究員・川島 建文)