中小企業と金融機関
毎日新聞No.50 【平成11年8月25日発行】
~難しい融資判断 新たな仕組みづくりが必要~
金融機関の融資が伸び悩んでいる。これは、自己資本比率の目標水準が打ち出され、達成しないと最終的には業務停止となることから、貸し渋りを行なっているためだという声をよく聞く。しかし、地元金融機関の状況をみると、目標水準は十分上回っており、その点で貸し渋りの必要はない。融資が伸びない主な理由は、新規需要の低迷や企業の業績不振ということになろう。
さて、右肩上がりの経済の下では、決算数字による短期的な業績判断だけにとらわれず、現状業績が芳しくなくても成長性や将来性を見すえた判断による融資が比較的容易であった。そして、それが特に中小企業との信頼関係を築き、地域との信頼関係を築いてきたといえる。しかし、現行の経済情勢では、リスクの大きい融資は要注意資産とみなされやすい。また、昨今は担保割れの回収が難しい融資を行なったとして銀行関係者が逮捕され、株主代表訴訟も起こされかねない時代であり、融資の判断は難しくなってきている。
欧米では、企業業績が四半期ごとに公表され、経営者は四半期ごとに確実に利益を出すことを要求されている。それが長期的な投資の実施を阻んでいるという説もあるが、わが国においてもいよいよ目先の利益のみを追求する考え方も取り入れざるを得ないのかもしれない。
しかし、地域経済の活力を作り出しているのは地域に存立する中小企業である。中小企業は、比較的景気の影響を受けやすく、財務体質が弱い。一方、民間金融機関の立場からは、回収が難しい融資や要注意資産とみなされそうな融資はちゅうちょせざるを得ない。融資の査定を甘くするのは論外であるが、地域金融機関は地域発展の責任の一端を担うという使命を考慮すれば、ひ弱な企業も長い目で見て育てるという側面が要求される。ベンチャー育成会社に委ねるという手段もあるが、国で行なう不良資産認定において大企業と中小企業で基準を変えるなど、地域金融機関がもう少し弾力的に中小企業に対応できる仕組みはできないものであろうか。
(山梨総合研究所主任研究員 村田俊也)