台所の中にも「説明責任」
毎日新聞No.51 【平成11年9月1日発行】
~好きな魚を食べ続けるために~
5年前アメリカに戻った友人が、日本で仕事をしている妹さんを訪ねて、久しぶりに日本にやってきた。日本にいたときの知り合いが集まって、旧交を温める場があったが、そこでどういうきっかけか忘れたが捕鯨の話になった。
友人は、確か5年前は捕鯨について賛成でも、反対でもなく、勉強中という状況であったが、今回、思わぬことを話し出した。鯨に限らず、漁業全体に反対だというのである。
その理由は、乱獲のため数が減少している種類があり、乱獲の原因に、商業的な漁業は多くの収穫を得るため、あまり環境のことを考えず、底引き網などで魚の種類、大小を問わず採ることにあると考える。
また、一国で、水産資源を守るために漁期、漁具の規制を行っても、その国の企業が自社の船に他国の船籍をとらせ、それらの規制に反した操業をさせるということがありうる。また、輸入した場合、その輸入元の国で乱獲を招く場合もあるので、全世界的に漁業を止めたほうがいいというのである。
とはいえ、友達同士の集まりでもあり、友人も日本人には魚好きが多いことを思い出し、さして議論にもならずこの話題は終わった。
だが、友人に限らず、世界中の人々が地球のあらゆることを知ることができるため、海とその生き物という、誰のものでもない、自分のものでも、自国のものでもないものに関心を持ち、そのことについて、自分の価値観で意見を表明しだしている。中には友人のように、魚の保護を第一とする意見もあるだろう。
この状況で、われわれが魚を食べつづけるためにはどうすればいいか。
乱獲をしないよう日本だけでなく、漁業の盛んな他国にもそれを求めるなど、水産資源を守るための努力を行いつつ、科学的データによって、自分達が魚を食べても、海洋資源の枯渇を招くことはないと、魚を多く食べない人々を説得しなければならない。
自分の好きな物を食べ続けるには、食べる側で義務を果たし、また、世界中の人々を説得するための努力が必要となる。
厳しいが、これも国際化社会の現実なのであろう。
(財団法人山梨総合研究所研究員・坂村裕輔)