危機的状況の医療保険制度
毎日新聞No.53 【平成11年9月22日発行】
~被保険者は意識改革を~
世界で最も優れた制度として評価されている日本の医療保険制度が、現在、危機的な状況にある。生活水準の向上や医療技術の進歩などにより、年々医療費が増大しているからである。近年、国民医療費は、毎年約1兆円ずつ増え続けており、1996(平成8)年が28兆5000億円と、81(昭和56)年の約2倍に達している。特に老人医療費は、ここ数年8%から9%の伸びで、65歳以上の人口増加率(年0.5%)を大幅に上回るほどである。
このような中、民間企業の雇用者で構成している健康保険組合は、老人医療費の負担増で財政難となっていることから、老人保健拠出金の支払いを延納するという手段に出た。
現在の老人保健制度では、高齢者(原則として70歳以上)が医療機関で受診した場合、窓口で支払う一部負担金は7%程度に過ぎない。
残りの医療費は、拠出金として国保、政府管掌健保、健保組合、船員保険、共済組合が70%、公費として国が20%、都道府県と市町村が各5%を負担している。
従って、老人医療費が増えると拠出金も増えることになり、各医療保険の財政をさらに圧迫させることになってしまう。拠出金は、被保険者(加入者)からみれば、広い意味での保険料的性格を有している。
一方、保険者にとっては、特定の公益的な事業に基づいて負担する強制的な賦課金であるといえる。これを延納しようというのであるから、相当に厳しい状況であることが想像できる。
今回の健保組合による延納は、拠出金の急増で財政が悪化している現状を訴えることで、遅々としてはかどらない医療保険制度改革(当初は、高齢者医療制度や薬価基準制度の見直しを柱とする改革を「2000年度をめど」に実施するとしていたが、先日、同年度以降に先送りされることが報じられた)を早急に進めさせようというのが本当の狙いのようであった。
確かに、このような現状をみると、制度全体の抜本的な改革が必要であろう。しかし、この問題の本質が医療費の急増からきていることを考えると、私たち被保険者も「重複受診」や「薬ねだり」などをやめて、医療費を大切(適正)に使うことから始めなければ、根本的な解決にはならない。
(財団法人山梨総合研究所研究員・竹野浩一)