歯止めかからぬ少子化


毎日新聞No.54 【平成11年9月29日発行】

~「女性の自立」進む一方で~

 「合計特殊出産率」、「高齢化率」という言葉がある。前者は15歳から49歳までの女性が生涯に子どもを産む年齢別出生率のことで、後者は総人口に対する65歳以上の老齢人口割合である。
 国際的な共通課題の一つに、少子化問題がある。わが国では、少子化問題と高齢化問題をあわせて少子・高齢化問題と呼ぶ場合もある。福祉や介護のように、国民が当事者となれば、問題に対する関心も高まるが、少子・高齢化問題は、ジワジワと利いてくるボディブローのような性格で、早期に対策を取らないと、国の存続にもかかわる重大な事態になりかねない。

 第1次ベビーブームの1950年、わが国の合計特殊出産率は3.65であった。ブーム後の10年間は急速な下降現象となり、一旦、2.00を切るまでに落ちるが、第2次ベビーブームの73年前後に2.13~2.14と少し戻す。しかし、また下降傾向をたどり、2年前の97年には1.39と過去最低となってしまった。

 一方、現時点で65歳以上の老齢人口は2116万人となり、総人口の16.7%と増えた。このままだと、若者のいない年寄りの国と化す。いや、それどころか、このまま合計特殊出産率が下降を続ければ、日本の人口はゼロとなる。そこで厚生省は、当面の合計特殊出産率目標を2.08と定め、子育て支援や保育延長などの対策をもって少子化に歯止めをかけようとしている。

 この現象に、過剰人口が是正されてよいという意見もあるが、社会構造のバランスが崩れ、私学や学習塾の経営問題や1人当たりの社会福祉費の負担増などを招く。これは、わが国だけの問題ではない。ちなみに、先進国における1995年の合計特殊出産率は、アメリカが2.02、イギリスが1.69、フランスが1.70であり、ドイツは94年に1.24という先進国では最低の記録をつくっている。

 現在の初婚年齢を27~28歳とすると、第2次ベビーブームに生れた若者たちがそろそろ結婚適齢期を迎え、第3次ベビーブームに期待したいところだが、果たして期待する値になるかどうか…

 社会現象である非婚、晩婚の原因には、女性の社会参画の促進、女性の高学歴化、男性の魅力低下、国際化、医学の発達、女性の自立化、結婚に対する価値観の低下、経済不安、学校教育の反動など、さまざまな要因が考えられる。しかし、男女共同参画社会を実現しようとするケースと同様、いくら施設や制度を整備充実しても、出産は個人の意識にかかわる要素も多いので、そう簡単に出生率は上がらないと思う。

 今年4月に男女雇用機会均等法が改正され、雇用における差別表現が規制されることになった。また、6月には男女共同参画社会基本法が制定され、即日施行となった。この2法から、今後はすべての面で男女が平等の機会を与えられ、互いの人権を尊重しながら社会参加を促進することになる。総理府や労働省では女性の社会進出を促し、厚生省では平均2人以上の子どもを産んでほしいと願う。

 果たして、世の女性たちはどう応えてくれるのか…

(財団法人山梨総合研究所主任研究員・向山 建生)