「森林都市」の可能性
毎日新聞No.55 【平成11年10月6日発行】
~子供にの自然体験の場を提供~
21世紀に向けての都市像のキーワードとして、高齢化社会に対応した「バリアフリー」や、インターネットの普及などに伴う「情報化」、エコロジーに配慮した「循環型」などが提唱されているが、提案として、森林に注目した「森林都市」を取り上げたい。
森林都市という考え方は、林野庁が平成2(1990)年に提唱した概念である。その意図するところは「20世紀型の巨大な都市ではなく、暮らしの場を森林の中にコンパクトにはめこんだ、緑豊かな生活文化都市」ということであり、単に緑が豊かだった昔の世界に戻るということではない。先端技術を用いた都市文化のメリットを生かしながら、森林の持つ浄化やいやしの機能を併せて享受できる都市という意味である。
特に最近は、不登校や学級崩壊、子供の運動能力の低下など、教育現場での混乱が問題として取り上げられているが、背景の一つには、子供達の自然体験の不足があると思われる。現在の都市においては、便利で快適な生活をもたらすことが優先されているが、人間の原点は「動物」であり、呼吸し、身体を動かし、休息する場として自然の存在が必要である。童謡「ふるさと」にあるような人と自然とのかかわりを、子供たちの心の原風景として持てるようにすることが重要であり、そのためには、子供たちが自然を経験できる場を、子供たちの近くにできるだけ多く設けることが重要である。
近年、自然と人間との共生が叫ばれ、また、安く長期間にわたり農村を体験するグリーンツーリズムが盛んになりつつある。自然が豊かな農村を訪れるだけではなく、自然を象徴する「森林」を、都市の重要な要素として組み入れてしまうという発想を、今後の都市づくりに生かしてはどうだろう。
まずは、人口密度の高く土地利用が厳しい中心部では、河川や街路、公園など、公共用地の緑を増やすことから、また、比較的豊かな自然が残る郊外部では、森林を残した土地利用を考えることから始めるなど、都市づくりの基本理念にこの考え方を採用することを提案したい。都市の快適さと農村の美しさを併せ持つ「森林都市」の可能性に期待する。
(山梨総合研究所主任研究員・廣瀬 久文)