野外バレエの聖地に


毎日新聞No.56 【平成11年10月20日発行】

~世界に肩並べた清里の祭典~

 5、6年前になるだろうか。男5人でドイツ、イタリア、スイス、フランスの旅に出掛けた。フランクフルトに着いてから地図を買い、真新しいベンツのレンタカーをチャーターしたのだから無計画このうえない。 ガヤガヤ言いながら、わが宝石の町、甲府と交流のあったカメオのイーダーオーベルシュタインを地図に見つけ、やっと行く先が決まり、フュッセン経由でミュンヘンまでロマンテッシュ・ストラッセ(ロマンテック街道)のドライブ旅行となった。
 大学の町、ハイデルベルクに着いたのは何日目かの夕方であった。宿を取って町をブラブラしながら丘の上の古城に登ると、正装した人達が入っていく。何か催しもののようである。早速、やじ馬をきめこむと、なんとオペレッタが始まった。夕日が城壁を真っ赤に染めゆっくりと沈む、まさにそのただ中でオーケストラをバックに歌声が響き、劇が展開されていく。2時間ばかりだったろうか、頭の中が真っ白になるくらいのカルチャーショックをうけたことを今でもはっきり覚えている。

 さて、10回目となった『清里フィールドバレエ・コンサート』が今年も終った。いや、終ったのではなく11回目に向けてスタートしたというべきかもしれない。昨年、文化庁から芸術大賞を受賞した創作バレエ「天上の詩」も、また真っ暗な萌木の森に繰り広げられた今年の「ジゼル」も夢の世界であった。

 毎年見続けてきたが10年にして文句なしにハイデルベルクの感動を超えるものになった。また、今年はインターネットを通じて世界中にライブ中継され、大きな反響を呼んだ。、とかく地元の力を疎んじ、外ものや舶来ものをありがたがるきらいがあるが、自信を持って地域の文化資源を世界に押し上げる努力をしなければならない。

 現在、山梨県が推進しているビジターズ・インダストリーは、ポールラッシュの”最善を尽くせ、しかも一流たれ”の言葉の通り、物質的にも精神的にも風土に根差した一流を作り上げ、質の高い人々が集う地域づくりをめざすものである。”清里を世界の野外バレエのメッカに”したいものである。 

(山梨総合研究所専務理事・早川 源)