地域シンクタンクは”町医者”
毎日新聞No.57 【平成11年10月27日発行】
~生活者の視点を~
1970年代まで横浜市のまちづくりに取り組み、一昨年まで法政大学でまちづくりを教えつつ全国を歩いていた田村明さんが今年の5月に「まちづくりの実践」(岩波新書)を出版した。すべてが事例とそれにかかわる実名によって書かれている本書の内容は、著名な湯布院や小樽運河から、あまり知られていないものまで幅広く扱っており、現代市民のまちづくり白書ともいえるものとなっている。
そこでは、市民がまちづくりの主役であり、市町村、県、企業などはわき役として描かれている。あらためて、地域の価値形成や振興は生活者の視点と継続的な活動が重要だということを考えさせる好著である。
この本に地域シンクタンクが登場していない。地域に根ざすことを宣言した地域シンクタンクが全国各地に設けられ、調査分析を通じてまちづくりにかかわっているはずなのに、なぜか注目される動きとして扱われていない。
思い当たる節はないではない。たしかに地域シンクタンクはまちづくりを対象とはしているが、全国規模で動いているシンクタンクと同じような調査レポート産業となっているのではないか。また、生活者の視点を重視することよりも、スポンサーの県や市町村の行政への配慮を優先させていないか。
今年春に訪ねた関西情報センターの理事は、「これからの仕事は、世間のミスマッチ状態を改善することですよ」と語っていた。たしかに、社会の変化は激しく、価値観が多様化していることもあって、各所でコミュニケーションギャップが生じている。
とりわけ地域社会では、介護、環境、景観、教育などミスマッチだらけである。地域シンクタンクには、その処方せんづくりが求められているが、そのすべてを受けるのではなく、地域に身近な政策集団としての特質を生かし、いわば町医者のように、生活者の視点による取り組みと大病院としての研究集団などにつなぐことで、まちづくりに貢献するという道を歩むべきである。
(山梨総合研究所調査研究部長・檜槇 貢)