マスメディア変革期へ


毎日新聞No.59 【平成11年11月17日発行】

~BSデジタルまで1年~

 「うちのテレビが一番小さい。」妻の話によると、ご近所のテレビに比べてわが家のテレビはかなり小さいらしい。なるほどお邪魔してみると、どこのお宅のテレビも30型とか32型で結構な迫力である。
 一方、わが家の居間には、21型のテレビがこぢんまりと置かれている。しかも12年も前のテレビだ。買った当時は大きかったのだが、今は小さい部類に入ってしまうのかもしれない。加えてチューナーが壊れているため、CATVのターミナルを通さないとテレビを見ることはできない。だが、テレビを買い替えるのはもう少し我慢だ。そう、BS(放送衛星)デジタルの放送開始があと1年に迫っているからだ。

 BSについては、すでにNHKと日本衛星放送(WOWOW)が放送しているため説明の必要はないだろうが、デジタル化とともにこの2局のほか、在京キー局と呼ばれる民放各局が参入し、しかも、新規参入の民放のBSは無料放送になるようだ。

 もちろん、現在のアナログ対応のテレビではデジタル放送を見ることはできない。アダプターを介せば見られるとのことだが、妻には「最初からデジタル対応テレビにするべきだ」と言ってテレビの買い替え時期を先延ばしにしている。

 さて、デジタル化の目玉はハイビジョン放送であるが、加えて注目したいのがデータ放送である。データ放送とは文字通り、さまざまなデータを各家庭のテレビに送るもので、たとえば天気情報やニュースなど視聴者が必要とするデータを、好きな時に画面上に引き出せる。それは、視聴者が「受動的存在」から「能動的存在」へと変わる瞬間であり、テレビが「マスメディア」から「パーソナルメディア」へと変わる瞬間でもあろう。つまり、BSデジタルの放送開始は、放送と通信が融合する序章でもあるのだ。

 アメリカ大統領の不倫疑惑が、あるホームページの特ダネであったのは有名な話である。こうした話に代表されるように、インターネットの登場で、すでに個人がマスメディアを手にしてはいるのだが、デジタル化の進展は、個人が情報を発信するという点においても、パーソナルのマスメディア化をさらに加速させる。これまで放送を一方的に流すだけであったマスメディア、特にテレビ業界は大きな変革を迫られることになりそうである。

(山梨総合研究所研究員 水石和仁)