創造性と革新性


毎日新聞No.60 【平成11年12月1日発行】

~相互刺激で地域を輝かせる~

 この1年、雇用の悪化を示す指標は過去最悪の状況を更新していたが、ここに来て有効求人倍率が2カ月連続で前月を上回り、「県内の雇用の悪化傾向は底を打った」と見られている。
 今年の労働白書が指摘するように、平成の景気低迷は、経済の国際化や情報化、急速に進む高齢化や女性の社会進出などが複合的に絡んだ社会経済の急激な構造転換が背景にある。現在、日本型雇用の基本である長期雇用慣行を含めてさまざまな構造変化が不況期に集中し、同時多発的に進んでいる。しかしながらその一方で、新規の雇用創出はなかなか進まない状況にあった。

 今回の結果からこうした深刻な事態が解消されたとは判断できないが、求人数が示すように最悪な状態は回避されたようである。次の段階としては、こうした状況からさらに飛躍することが求められる。

 既に政府は、6月に緊急雇用対策をまとめ、雇用の創出と迅速な再就職の推進などに取り組むとともに、7月には労働者派遣法と職業安定法を改正し、人材派遣と民間の有料職業紹介の対象業種を原則自由化し、臨時的な労働力の需給調整や企業活動の効率化を図ろうとしている。

 一方、働き手には現在、企業目標がキャッチアップ型から創造型へと移行するのに伴い、創造性と革新性が求められるようになってきている。働き手が、こうした中で新しい製品、製造方法などを生み出していくためには、多様な人材による相互刺激が特に重要であるが、現状の一企業内社会だけで自らを高めることには限界がある。そこで、さまざまな場面において自らを高めることができるような生涯設計をもつことが必要となる。

 それでは、こうした創造性を生む働き手を地域社会で多数育てていくためには、どのような方法が考えられるであろうか。

 まず、地域社会と企業に、自己責任による新たな取り組みや労働移動などに対するリスクを軽減する仕組み(優遇税制、失業保険充実など)が求められる。また、勤続年数によって定期的に自己研さんを図ることができるような仕組みや、労働省所管の訓練校だけでなく、大学や民間の教育施設など、多様な機関で職業能力開発が受けられるような仕組みを設けることが求められる。さらには、労働年数に応じて自動的に能力開発のための長期有給休暇が得られる自己投資システムのような仕組みの創設なども求められる。

 白書では今後の雇用政策として「転職を容易にする環境整備」と「社外でも通用する職業能力開発」を掲げている。こうした政府の雇用政策と合わせ、今後はここに例示したような対策が実行に移され、企業や地域社会で機能することにより、新たな雇用がこんこんと生まれ、輝いた人材が多数働いている豊かな地域社会が創られるものと考える。

(山梨総合研究所主任研究員・窪田洋二)