もてなしの心


毎日新聞No.69 【平成12年 3月15日発行】

~観光立県・山梨の未来~

 山梨は観光県である。 県観光課の調べによると、1998年に県内を訪れた観光客は、初めて4,000万人を上回った。また、95年の国勢調査における観光産業(旅行業、ホテル・旅館など)に従事する割合を県別にみると、石川、長野、沖縄に続いて、山梨は全国で4番目に多く、県民生活において観光の占める位置の大きいことがわかる。
 このように、ふだん身近な「観光」という言葉であるが、改めて辞書をひいてみると、次の通り載っている。
 (観光)他の土地を視察すること。また、その風光などを見物すること。観風。(岩波書店「広辞苑 第5版」)
つまり、観光とは、その土地の景色や風景といった風光を見ること、とあるのである。これを観光客の視点に立って補足するならば、「他の土地を視察すること。その風光などを見物し、その土地の暮らしを伺い知ること」というように、暮らしの営みに触れることを観光の要素として加えてみたい。例えば、訪れた土地で普段食べているものを食べてみたい。例えば、暮らしを支える地場産業があるならば、体験したり、その仕組みについての理解を深めたい。その土地にある普段の暮らしに触れ合いたいのである。
 このような視点から、観光立県・山梨の未来を見通すと、二つの求められる要素が浮かんでくる。一つには、これまで山梨の観光は、その素晴らしい風光を見てもらうことに気がいき、本来持っている土地の暮らしに触れてもらう機会が少なかったのではないか。これからは、もっと「甲斐の国の暮らしぶり」を紹介していくことが、観光客の満足につながるのではないか。
また、今一つには、こうした普段の暮らしぶりは、観光客のみならず、土地に暮らすものにとっても触れ合うと心地良いものでありたい。土地に暮らすものに心地良くないことが、訪れてきたものに心地良いとは思えないのである。

 次の時代における山梨が、訪れて心地良い、住んで心地良い観光県であることを願って…。

(山梨総合研究所主任研究員・川島)