「まち」を感じるまちづくり


毎日新聞No.70 【平成12年 3月22日発行】

~大阪市平野区 歴史を生かす生活の中で~

 まちの景観保全などのハード整備を前提とせずに、暮らしの中で一人一人がまちを感じることができるソフト中心の地域づくりを見ることができた。
 大阪市平野区は、商店街を中心とした人口20万人の地域である。古くは環郷のまちとして、堺とならぶ商人による自由都市であり、その歴史からか、「自分たちのまちは自分たちで」を合言葉にまちづくりを行っている地域である。「歴史を活かすまちづくり」をテーマに、今まで見落としていた自分たちのまちの中をよく知るための「町巡りツアー」や「たそがれコンサート」、日本最古の民間学問所であった「含翠堂(がんすいどう)」の講座復興、平野に古くから伝わる「御田植神事(おたうえしんじ)」の保存や「平野連歌」の再興など、まちの今と歴史を知り、感じ、そこから暮らしの豊かさを見いだす活動を行っている。

そうした中、住んでいる人自身にまちを知ってもらうことを目標に、1993(平成5)年から始めた「町ぐるみ博物館」活動は、「来て見て100博物館」というイベントを開催できるまでに地域全体にその精神が行きわたり、結果として、まちへ訪れる人々の増加をもたらしている。平野を訪れる人々は、案内板もないまちの中を1枚の地図を頼りに回遊し、歴史や自然、音やにおいを感じ、平野の人々とのふれあいを楽しみながら小さな博物館にたどり着くことになる。そこではまた、館長であり、案内人である住民との会話を楽しむことができる。

「平野には多くの人々が訪れてくれるようになったが、人を呼ぶための『観光』を目指していたわけではない。目に見えないものを感じてもらう『感風』づくりを行っている。しかし、結果としては観光振興につながっているのだが。」とは、平野のまちづくりを考える会の人々の言葉である。最近では、町ぐるみ博物館の一環として平野在住のアーティストと一緒に行っている「モダンde平野」というアートフェスティバルにより、全国から注目を集めているが、ここでも活動の目的は、住民一人一人がアーティストになることである。

 平野のまちの人々は昨年の大みそか、平野弁で「歓喜の歌」を歌うイベントを企画した。記録出版した「平野のおもろいことば」をもとに、まちの人みんなで作った平野弁バージョンの「歓喜の歌」を歌おうと、当日は数百人が集まった。「なんや かんや ゆぅても 平野のまちが いっちゃん すっきゃねん」と結ぶこの歌に、自分たちのまちは自分たちで作ってきた平野の人々の深い豊かさを感じることができる。

(山梨総合研究所主任研究員・窪田洋二)