高速変化の情報通信
毎日新聞No.71 【平成12年 4月 5日発行】
~”次世代”が次々出てくる~
もう20年近くも前であろうか、ある在京テレビ局の敏腕プロデューサーが「ライバルは任天堂だ!」と語っていた。当時、彼が担当していたバラエティー番組は視聴率が高く、裏番組を圧倒していた。そんな彼の唯一の敵が、一世を風靡し始めていた「ファミリーコンピューター」だと言うのである。「ファミコン」がブームになればテレビを見る人は確実に減る。このプロデューサーの言葉は、他局に対する大胆な勝利宣言であったのだが、同時に視聴者のテレビ離れに大きな懸念を抱いていることをうかがわせるものだった。
時は流れ、「ファミコン」をはじめとする家庭用ゲーム機も進化した。ソニー・コンピュータエンタテインメントによる「プレイステーション2」の発売に続き、セガや任天堂も新製品や新サービスを投入する。
次世代ゲーム機が続々・・と言いたいところだが、ご承知のように、もはやそれらはゲーム機と呼ぶにはふさわしくない。携帯電話との接続、インターネット対応など、ゲームもできる情報端末というのが正解であろう。パソコンが部屋の隅に追いやられるのも時間の問題かも知れない。テレビはどうだろう。お茶の間で大きい顔をしてきたテレビであるが、顔は大きいままかも知れないが、映し出されるのはダウンロードされたゲームや映画、あるいはどこかの仮想商店街だったりする。
街に出れば携帯電話である。NTTドコモの「iモード」の成功に見るように、携帯のネット接続に関して、日本はアメリカを一歩リードしているが、そんな携帯電話にも次世代型が登場する。静止画はもちろん、動画の送受信などが可能になるという。携帯電話一つあれば大抵のことはできるようになる。音楽業界では一時期、「携帯不況」なる言葉が使われた。携帯電話やPHSの通話料がかさむため小遣いが足りず、CDを買う若者が減ったことを意味しているらしいが、近い将来、携帯で映像配信が受けられるようになれば、今度はどんな言葉が使われるのであろうか。
テレビを見る時間は変化し、若年層ほどテレビ以外の画面(ビデオ、家庭用ゲーム機、パソコン)に向かう時間が長くなっている。インターネット利用者の1週間あたりのテレビ視聴時間は、インターネット非利用者より約5時間少ないそうだ(1999年版通信白書)。現状の1000倍以上の速度とも言われる次世代インターネットが実現すれば、視聴時間はさらに減少するであろう。
テレビ番組のプロデューサーにとっては、ライバルが増えすぎて受難の時代となったが、情報化をめぐる動きは進化が速すぎて、一般のビジネスマンもうっかりしてはいられない。ぼんやりと「プレステ2」発売のニュースをテレビで眺めているうちに、世の中ががらりと変わってしまいそうだ。
(山梨総合研究所研究員・水石和仁)