地球にやさしいって?


毎日新聞No.73 【平成12年 4月19日発行】

~危ないのはわれわれだ~

 友人と地球温暖化の話題になり、「地球にやさしい」という言葉を使ったところ、「でも、地球にやさしいってのも変だよね。地球が温暖化しても地球は暑くも何ともないよね。」と言われたことがあった。
 確かに、われわれの営みにより地球が温暖化しても、地球は暑く感じない。また、地球がわれわれに対してやさしいから、水や空気や自然を与えてくれるのでもない。地球の上に展開されてきた自然の営みを前提に、われわれの先祖が生まれ、この便利で快適な生活ができるほどに進化したということなのである。
だから、今の地球の営みが乱れるようなことになれば、われわれが生きづらくなり、人類という種が生きられなくなる可能性がある。よって、地球の温度を上げるようなガスは少しでも少なくしなければならないし、、水や土を汚さないようにゴミは少なくし、出たゴミはきちんと処理しなくてはならない。便利な生活を支えている化石資源は大事に使わなくてはいけない。

 「地球にやさしい」という言葉は、耳に心地よい。だが、この言葉では、われわれの生活があぶないという、心地よくない可能性を隠しかねない。
わたしが携わったある調査で「環境にやさしい行動をしていますか」という質問に、「環境にやさしい行動とはどういうことか。意味がはっきりしないので答えられない。」という回答があった。
もっともな意見である。耳に心地よい言葉は多分に情緒的であるため、その言葉の指す具体的な内容が人によって異なってしまう。
今は、環境問題に限らず、教育問題、福祉問題、地域の振興など、一人一人が考え、行動しなくては解決できない事柄が増えている。そのためには、これらの問題を考えるきっかけとなる情報を発信する側は、なぜそのことを考えなくてはならないのか、どうしてそういうことを行わなければならないのか、その言葉の指す内容が人によって異ならないことばを使って、根拠をはっきりさせつつ、その問題についてわかっていることとわかっていないことを明確にして、話さなければならないだろう。

 この仕事を通じて知った教訓である。

(山梨総合研究所研究員・坂村裕輔)