コミュニケーション型行政への転換


毎日新聞No.74 【平成12年 5月10日発行】

~身近な疑問を「出前」感覚で~

 建設省のホームページを検索していると「出前講座」という言葉に目が留まった。そういえば先月の地元の広報紙にもその言葉が載っていたことを思い出した。
 建設省の事業といえば大規模な国土の開発が長期にわたり行われ、かつ利害関係者も多く、近年では税金の使われ方に対する国民の目も厳しく、かつ環境にも配慮したスタイルでなければ受け入れられないこととも関連して、変革の方向すなわち「コミュニケーション型行政」への転換が進められている。旧来の、ややもすると一方通行のような「提示型」行政に危機感を感じ、地域の方たちとの合意形成のためには積極的に自ら行動しなければならないという姿勢を表している。

 社会資本整備や地域づくりは、国民と行政とのコミュニケーションの基に成り立ち、行政の持つ情報を公開し、透明性を高め、説明責任(アカウンタビリティ)を果しながら、一緒に考え、社会的な合意を円滑に形成しつつ進められるものでなければならない。

 その過程で国民と行政が直接接し、持っている正確な情報を迅速に提供し、施策を知ってもらい、お互いの意見を交換する場を設けることは、特に重要である。

 地域住民にとっては、直接、わかりやすく説明を受け、疑問に答えてもらうことにより、事業についての理解を深めることができ、一方、職員の側にとっては地域の人を前に、自分の専門を生かすことで資質の向上、意識改革等いわば自己啓発の機会にもなり、コミュニケーションの推進を通じて、国民と行政との信頼関係が強まることにもなる。

 「出前講座」も実際に事業を進めていく職員が講師となり派遣を通じて、新しい事業の趣旨や基本的な疑問等を直接国民に説明するとともに国民のニーズ等の把握に務め、多様な価値を取り込み、社会的な合意形成を作り上げていくものである。

 建設省の「出前講座」は「コミュニケーション型行政」推進の一環として、1年ほど前から試行的に開始され、今年3月現在で1,000以上のメニューを用意し、公共性のある機関を対象に約150件が実施されている。中央省庁に限らず、このような取り組みは身近な市町村でも進められつつある。

 地域の事業などについて疑問があり、それについて深く知りたいのであれば自分の住んでいる役場に「出前」を注文してみたらいかがだろうか。自身の満足度の向上にもつながる上、地域の職員と一緒に考える機会にもなる。

(山梨総合研究所研究員・樋口真二)