共に生きる社会の実現へ
毎日新聞No.75 【平成12年 5月17日発行】
~障害者への支援は地域から~
障害者やその家族はともすると家に閉じこもりがちとなるため、社会生活を通じて習得しなければならないさまざまな体験に乏しくなる危険性がある。
白根町社会福祉協議会では、町内心身障害者父母の会が中心となり、3年ほど前から障害者のリハビリ訓練に乗馬を取り入れた活動を行っている。
「乗る前は緊張したけれど、馬の背中に乗ったら、楽しくてとっても良かったです。それと、乗馬する場所の人たちとの交流が僕にとってかけがえのない思い出となります。」これは、実際に障害者乗馬を体験している子供の声である。
障害者乗馬は、日本ではまだ一部にしか知られていないが、ヨーロッパでは障害を持った人たちのリハビリとしてすでに定着している。障害者が馬に乗るなんて、ずいぶん乱暴な行為に思われるかもしないが、そのような試みは、古代ギリシャ時代より行われており、馬に乗ることで身体の機能回復訓練になったり、豊かな感情の変化が見られたりといった効果をもたらしているという。また、リハビリ面だけに限らず、動物との触れ合い、スピード感、今までに経験しなかった高い視野などを味わう楽しみの場でもあるという。さらに「馬に乗った」という満足感が自信を生み、乗馬を手伝ってくれたヘルパーとの交流も生まれるそうである。
このようなことを聞くと、障害者乗馬は障害者にとって良いことずくめのように思われる。しかし、ヨーロッパではともかく日本では、各地で小さなグループがそれぞれの手法で活動してはいるものの、ボランティア不足等は否めず、多くの乗馬希望者の要望には応えられないのが実情のようだ。
障害者は、自らの力で生活することが困難であっても、地域からのさまざまな支援があれば自立した生活を送れる。だが、この障害者乗馬ひとつとっても分かるように、我が国には障害者と共に生きる社会を実現するための課題も多い。これを解決していくためには、器(参加できる場)づくりも重要であるが、まず、我々に潜む意識や態度、行動などの心理的な障害を取り除き、地域から手を差し伸べていくことが必要であろう。
(山梨総合研究所研究員・竹野浩一)