中山間地直接支払制度の導入
毎日新聞No.77 【平成12年 6月 7日発行】
~更なる発展を期待~
農水省では、今年度から、過疎や高齢化の進展により農業の担い手が減少し、耕作放棄地の増大や農業の持つ多面的機能の維持管理が難しくなっている中山間地域に対して、わが国農政史上例のない「中山間地域等直接支払制度」を導入することとした。
これまで中山間地域は、食料の供給のほか、農村の景観形成、国土の保全、自然資源の管理、生物多様性の保全といった諸便益の提供を通じて、下流域の都市住民だけでなく広く国民の生命・財産を守るという、公益的役割を果たしてきた。しかしながら近年、過疎化・高齢化が進行する中で、農業生産条件の不利なこれらの地域は、耕作放棄地の増加のみならず、集落自体の崩壊すら懸念されており、一度荒廃するとその復旧には多大のコストを要すること、また、1995年に成立・発効した「WTO農業協定」においても同様の趣旨が掲げられていることなどから、このような制度の導入に踏み切ったものである。
この制度では、特定農山村法等の指定地域のうち、傾斜等により生産条件が不利で、耕作放棄地の発生が懸念される一団の農地に対し、水田(傾斜度20度以上)で1000平方メートルあたり年額21,000円が、畑地(傾斜度15度以上)で水田の半額が支払われるほか、それ以外の草地や緩傾斜地でも一定の要件を満たすことを条件に支払いを認めている。その代わりこれらの対象地域では、地域内の耕作放棄地の発生を防ぎ、農業生産活動を5年以上継続して行う旨の「集落協定」を結ぶことや、耕作放棄される農地を第三セクターや認定農業者などが引き受ける「個別協定」を結ぶことなどが義務づけられており、農地の持つ多面的機能の維持・保全を、主に「集落」という農村の基本単位に期待している。
さて、この制度の効果であるが、面積当たりの単価がそれほど高くないことから、条件不利地域の農家の所得を保障するという色彩は薄いものとなっているが、集落協定の内容や支払金の配分方法などで、地域の特性を生かすべくかなりの自由度と自主責任が認められており、集落維持の潤滑油としての機能が期待される。また、農村の持つ多様性に着目し、国土保全や景観、自然資源などの公益的機能に対しても一定の評価を示しており、既往政策から大きく踏み出した点について、かなり高く評価できる。
今後は、直接支払の金額について、明確な説明を国民に対して行うことや、制度運営の透明化を図り、「バラマキ」行政との批判を受けぬよう、これまでの施策とは一線を画す姿勢が望まれる。集落営農の発展と農村の自主的運営に一定の方向を示した、中山間地域等直接支払制度の更なる発展に期待する。
(山梨総合研究所主任研究員・広瀬久文)