「あまねく」に注目


毎日新聞No.81 【平成12年 7月26日発行】

~「NTT法」「放送法」改正議論の中~

 メディアに関連する二つの法律が、今、大きな渦の中にある。一つは「NTT法」であり、もう一つは「放送法」である。
 NTT法については、回線接続料の引き下げ問題に絡んでNTTの社長が改正論議をぶちあげた。接続料と言うのは、他の通信事業者がNTT東西地域会社の市内通信網を使うときに支払う料金のことで、欧米に比べて高いため、アメリカから値下げ圧力がかかっている。「料金を引き下げるなら、NTTや地域会社の業務範囲を縛っているNTT法を改正せよ。」というのがNTT側の主張だ。ただし、接続料については事実上決着したので、法改正についても、近く何らかの着地点が見えてくるかも知れない。
 一方の「放送法」も見直しの話である。
 放送法の改正をめぐっては、郵政省が今年5月に「放送政策研究会」発足させ、(1)放送概念の整理 (2)民間放送の主体の在り方 (3)公共放送の在り方 の3つを検討項目の柱としている。NHK(日本放送協会)の受信料制度や業務の範囲、さらには民放の「県域免許制度」などについても議論される見通しである。中でも、現在、地上波とBSなどに限られているNHKの業務範囲がどう見直されるのかは興味深いところだ。
 NHK側の見解は、同協会のホームページを見るとこんな風だ。「現在の受信料の中で、あらゆる伝送路を通じて、国民にユニバーサルサービスを提供していくことが、公共放送NHKの使命だ」
 つまりは、業務範囲の拡大である。「肥大化につながる。民業圧迫ではないか」などという声も聞こえてくるが、「国民にユニバーサルサービスを提供していく」のはNHKがNHKたる所以である。もちろん民放も、NHK同様、公共的な大きな使命を持ってはいるが、公共放送たるNHKに課せられた使命は民放以上だ。すなわち、放送法第7条にいう「協会(NHK)は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行い�」の部分である。
 ところで、六法全書を10ページほど読み進めていくと、同じような条文が載っている。NTT法第3条の「会社及び地域会社は(中略)電話の役務のあまねく日本全国における�」という部分だ。
 二つの法律の見直し論には、経営に自由度を与え、競争を促進することに主眼が置かれている向きもあるが、条文に言う「あまねく」も重要な論点だ。デジタル・デバイドが情報化時代の課題としてクローズアップされるなか、国民の一人としては「あまねく」という部分にもこだわりを持って、法改正の議論を見つめていたいところである。

(山梨総合研究所研究員・水石和仁)