IT革命進展と人間関係
毎日新聞No.83 【平成12年 8月30日発行】
~弱者への対策必要~
新聞や雑誌を眺めると、ITという言葉の載っていない日はない。有名な政治家が最近まで「イット」と言っていたというのはご愛きようだが、ITとは、インフォメーション・アンド・コミュニケーションズ・テクノロジー(情報通信技術)の略のことで、「アイティー」と呼ぶ。ここに来て急速に注目が集まっているが、正確には何を指すのかまだはっきりとは固まっていない。
例えば、「イミダス」や「知恵蔵」では、「情報技術」としか書いていないし、「現代用語の基礎知識」に至っては、用語索引にさえ載っていない。あえて言えば、製造や経営などに画期的な変化をもたらす情報通信手段のことで、身近な例ではインターネット経由で物が買えたり、外出先からエアコンや電化製品を操作できたり、テレビを使って会話ができたり、自宅にいながら診察を受けたり、ということが実現し始めている。
ITについては、日本のこれからの成長を左右する大きな要素として、大々的に取り上げられており、ITが分からないと世の流れに乗り遅れているという風潮すら感じる。
確かに、ITにより、生活は便利になっていくだろう。しかし、だからといってITは、私たちに「幸せ」を届けてくれるだろうか。
先日某全国紙に、米国における経済の空洞化の記事が掲載されていた。ITを駆使した企業経営により従業員の削減が進行しているというものである。失業者は、以前より低い賃金の職業につくことを余儀なくされ、IT導入により企業はもうかるものの、労働者は貧困化するという。製造業の人員削減でサービス業への就職が増加し、その結果、平均賃金が低下することから共働きを余儀なくされるという傾向は、ITが騒がれる以前から指摘されている。しかし、IT技術の導入がこれに拍車をかけ、貧富の差が広がっていることは事実である。
ITの導入は、一方で新しい職種の雇用を増やしているという意見もある。しかし、中高年者を中心とするリストラ対象者を再教育することは難しく、IT革命の恩恵による失業率の改善はそれほど期待できない。
また、ITの進展は、対人関係にも変化を及ぼす。ネットを悪用したプライバシーの侵害、悪質な嫌がらせや犯罪が多発していることは周知のとおりである。最近は、ひざを交えて話し合うこともなく、メールを使った離婚請求なども起きているそうである。
ITは、技術進歩ではなく、革命と表現される。これは、産業革命と同様に、生活を根底から変えることを意味するからだと言われる。ITの進展を止めることはできないが、「人間関係の乾燥化」や「IT弱者」に対する施策は、今から講じる必要があるのではないか。
(山梨総合研究所主任研究員・村田俊也)