町ぐるみツーリズムの薦め


毎日新聞No.86 【平成12年10月11日発行】

~実践支える仕組みを~

 地域資源や生活文化を基盤に、農村と都市とが交流しながら地域の活性化を目指すまちづくりを行っている熊本県小国町を訪ねる機会を得た。
 小国町は、自然豊かな阿蘇の山間の町で、「小国杉による地域デザイン」と称してユニークな木造施設群を建設したり、町がコミュニティFM局を開局し、地域の情報発信を行うなど独自の取り組みで全国的にも注目を集めている。
 この町では、新しい農村観光としての「ツーリズム」をキーワードに取り上げ、交流型振興策の一つとして実践者やリーダーの育成などを行う「九州ツーリズム大学」を開校している。地元の風土と地域資源を生かした農村観光の経営手法や農産品加工、景観形成など幅広い分野について学ぶもので、学長には町長が就任し、運営は町と地元住民が出資する財団法人が行っている。単に机の前に座って講義を受けるだけでなく、積極的に地域に出向き、実際に農家に泊まって農家民宿のプランを考えたり、地元の食材を使って新しい料理を作ったり、集落を歩いて地域のつながりを肌で感じたりと実践的なメニューが用意されている。町内外から集まる受講生は農業をはじめとした自営業者や会社員、公務員など多種多様で、世代も幅広いという。
 このツーリズム大学の成果として、小国町内では最近、農家民宿、農家レストランなどが増えてきており、その土地で収穫した農産物でお客さんをもてなし、その土地の生活文化を通した来訪者との交流が行われている。また個人だけでなく自治会単位でも、地区の集会施設を宿泊可能なものとして、その地区の奥さん方が宿泊客をもてなしたり、はては消防団の詰所までもが、来訪者の宿泊施設として利用が可能となっているなど、町全体で訪れる人たちの受け入れ体制が出来上がり、地域の活性化に一役買っているそうである。また余談だが、地区の集会施設においてはその建設費を来訪者の宿泊費の利益から数年で償還してしまったところもあるという。
 最近、各地でグリーンツーリズムなどへの取り組みが見られるようになってきている。山梨県内には、山や湖、緑などの美しい自然、果樹やワイン、宝飾などの産業や文化など、県外に誇れる豊かな資源がたくさんある。こうした豊かな資源を上手に生かした「交流」の仕組みやそれを具体的に行うための手掛かりや手法、アイデアなどを伝え、アドバイスを行う組織や機関が存在し、それが機能するようになれば、山梨県も推進する交流による地域活性化のきっかけの一つになるのではないだろうか。

(山梨総合研究所研究員 小林 好彦)