新発見における共通点
毎日新聞No.87 【平成12年10月25日発行】
~夢と人と「偶然」~
白川英樹筑波大名誉教授がノーベル化学賞を受賞した。「プラスチックの一種であるポリアセチレンの表面をヨウ素の蒸気で酸化させることで、電気伝導率が10億倍も高まる」という物質の発見が対象になった。
ITの発展に大きく寄与した物質らしいが、10億倍と聞いただけでもすごい。受賞の知らせに白川教授は「まさか」と思い、スウェーデン大使から正式な連絡を受けるまで、報道へのコメントを控えたという。国内では水害や地震などの暗いニュースが続く中、シドニーで金メダルを獲得したマラソンの高橋尚子さんに続く国際的な明るいニュースである。その白川名誉教授と高橋尚子さんが親せき関係だというから、話題は更に広がる。
新聞で、白川教授がその物質を開発した経緯を読み、人口皮膚を開発した元ユニチカ研究所の木船紘爾さんのことを思い出した。2人に共通していることは、「子どものころからその分野に関心があり」「常に研究テーマをもち」「発見に偶然があり」「米国の学者との出会いがあり」「日本における最初の発表では、評価されなかった」ことである。
白川教授は、子どものころからプラスチックに興味を持ち、夢をかなえてその研究者になった。そして、電気を通すプラスチックができないだろうかという研究テーマを持ち、東工大の助手時代に大学院生が誤って1000倍の濃度の触媒を加えたことで、薄膜状のポリアセチレンを発見した。その成果がペンシルベニア大のマクダイアミット教授に注目され、渡米して共同研究を行い、高伝導率の新物質が開発されたという。
木船さんも、少年時代から科学への関心が高く、九州大合成化学科を卒業してユニチカ研究所に入った。新発想での新規事業展開という糸業界の課題を抱え、アメリカのユタ大に留学。そこで人口腎臓の権威であるコルフ博士と出会い、さまざまな教えを受け、「デキソン」という体内で溶ける緑の糸を手にして驚き、帰国したら「デキソンより良質な、心臓外科でも使える強い糸」を研究テーマにしようと決意した。ある日、ポリアセチルグルコミサンという、体内で溶ける物質をアメリカ外科学会の雑誌で知る。それがキチンという蟹やエビの甲羅に存在する物質と同じだと分かった。木船さんはまず、純度の高いキチンの生成には成功するが、キチンはなかなか溶解しなかった。ダメだとあきらめかけた時、偶然に洗い場で水が混入して溶解した。次に、強い糸にならないという壁に当たった。それを上司の発想の転換でクリアーし、心臓外科で使える強い糸が完成した。ところが木船さんは、そこで研究をやめなかった。糸だから布として使うことを考えた。アメリカで「コラーゲン」という人口皮膚が発表されたが、キチンの布で動物実験を繰り返していた木船さんはキチンの方が上だと確信し、国内で発表した。その評価はいまいちであったが、注目してくれた二人の博士と共同実験をすることになり、ついに人口皮膚「ベスキチンW」を完成させた。それが厚生省から認可され、コンスタンチン君に使用された。
大発見や新開発にはよく、このような感動する共通点がみられる。
(山梨総合研究所主任研究員 向山 建生)