IT(情報技術)による住民参加システム
毎日新聞No.88 【平成12年11月 1日発行】
~「電子自治体」実現へ~
地方分権一括法が施行されてから半年が経過した。この法律の施行で、現行の国と地方自治体との関係は上下・主従の関係から、新しい対等・協力の関係へと移行することが期待されている。とりわけ大きな特徴として、従来の機関委任事務が廃止され、自治事務と受託事務に再構成されたことが挙げられる。これにより、従来の機関委任事務においては認められなかった「条例制定権」が、自治事務と受託事務においては認められることになり、地方自治体は、法令に反しない限り自治に関する全ての事項に独自の条例を定めることが可能となった。
このことは地方自治体における自主決定権の拡大と、そのための「政策自治体」としての能力形成が必要になることを意味するが、限られた人材や財源の中で、地方自治体だけで対応することには一定の限界がある。このため、政策展開の全ての段階に住民が参加できる仕組みとして、行政への住民参加システムの構築が望まれ、これにはIT革命とも呼ばれる情報技術の進展が、重要な役割を果たすことが予想される。
住民参加システムとして、まず計画の策定段階では、情報公開による住民と行政との情報共有と「パブリックコメント制度」による住民意見の反映が期待される。また、施策の決定段階では、「電子投票」に合意形成の機能が期待され、事業の実施段階では、「パブリック・インボルブメント」による意見収集や、「電子入札制度」による公正で迅速な事務処理などが期待される。さらに、実施結果の公表と評価の段階では、インターネットなどによる電子化された情報の公開が有効であり、公正性や透明性の確保、成果と費用との比較による効率性の評価など、行政のアカウンタビリティ(説明責任)の確保も期待される。
パブリックコメント制度は、行政の政策形成過程において広く住民に案を公表し、それに対する意見・情報を考慮しながら意思決定を行う行政手続の一つであるが、既にインターネットなどを利用して国やいくつかの自治体で実施されている。また、パブリック・インボルブメントは、計画策定や意思決定の段階から住民の参加を求め、住民の意見を可能な限り反映させる方式だが、これについても公共事業などを中心に実施されている
さらに入札手続きなど公共事業の受発注業務を電子化する電子入札も、2001年度の導入に向けて建設省を中心に検討が進められており、山梨県でもインターネットを使って備品を調達する「電子調達」の導入が検討されている。
このように、今後の行政運営には、政策の立案段階からの行政と住民の双方向のコミュニケーションが必要で、これを可能とする高度な情報技術の確立が期待される。わが国でも、高度に情報化された行政を目指す「電子政府」実現に向けて取り組みが進められており、今後、地方自治体においても、高度な情報基盤を活用した効率的で高い水準の行政サービスを提供する「電子自治体」の実現が期待される。
(山梨総合研究所主任研究員・広瀬久文)