自主的な市町村合併


毎日新聞No.90 【平成12年11月22日発行】

~住民本位のまちづくりを~

 21世紀へのカウントダウンが始まる時期になった。多くの市町村で新世紀の地域像と、それを具体化する政策づくりの10年計画としての総合計画の策定が進められている。ある町の総合計画策定の審議会に出席した折に、委員の一人から市町村合併を前提にすべきではないかと語られた。10年後のその町のあり方を考える際に、現在の行政区域ではなく、より広い地域的範囲で論じることの必要性の提起である。
 確かに、私たちの生活は行政区域の中だけで充足されていない。日常生活で必要な買い物、学校、仕事、遊び、医療等を特定の市町村内だけで済ませることができるという人は少ない。生活行動について、行政区域を超えた一種の地図イメージがあり、人々はこれに沿って行動し、生活欲求を満たしているのであろう。その一方で、行政区域は地域経営の基礎単位であり、その区域の公共的なモノ、情報、カネ、ヒトのマネジメントが行なわれている。それも選挙制度などによる政治的な決定力が装置化されている。だから、豊かな生活像を描き、それを人々が実現するためには、大多数の広域的イメージ地図に近い行政区域が必要であり、そのためには合併が求められることになる。
 ところが、私たちの市町村の区域は、国から与えられたものであり、住民主体でつくり上げたという歴史がない。そのせいか、自主的な合併はうまくないようである。文化、産業面で共通性のある隣接地域での合併案が出されるが、それを住民らが自主的に進め、新しい「自治体」に仕上げるという作業はこれまで行われてこなかった。明治時代や昭和20年代後半に大型の市町村合併が行なわれているが、これらはまさに国家全体の近代化や成長型社会の仕組みとしての地方行政の規模拡大が志向されたもので、そのために国や県によるいわば強制的誘導による合併が行なわれたのである。
 現代の合併は地域に生きる人々によって自主的に行なわれる合併を目指している。合併の制度、手続き、支援方策は用意されているが、その内容を見ると、主役の座は関係市町村と住民のために空けてあるといってよい。21世紀において、これからの経済的、財政的環境変化に耐え、住民の高度で多様な欲求に応えられる地方政府を関係市町村と住民が自主的につくることが予定されているのである。県や国は、強制的誘導を行わず、その動きを外側から手法、税財政、情報等において応援し、全県的な枠組み等から調整を行うことになる。
 この自主的な合併の途には王道はない。合併は隣接市町村の未来にわたる信頼関係の形成が基本になる。どこにおいても行われている小さな住民主体のまちづくりの現場から、広域的関心を引き出し、基本となる地域経営主体づくりへとすすめていくという方法が自主的合併の基本である。

(山梨総合研究所調査研究部長 檜槙 貢)