300年の積み木


毎日新聞No.100 【平成13年 3月20日発行】

~21世紀担う子供たちへ~

草原に子供たちが群れて積み木を積んでいる。のぞき込むと間伐材でつくった白木の積み木、最後の一つを乗せようと子供の手がブルブル震えている。台形の積み木が手を離れゆったりと揺れながら創造物の上に収まったその瞬間、目と口を大きく開いて子供が嬌声をはりあげた。ギャラリーからも一斉に歓声があがる。「ポールラッシュ祭」八ヶ岳カンティフェアーの風景である。
 さて「大正7年に建てられた東京駅前のシンボル丸ビルが取り壊された。建て替えを進めている三菱地所は、その土中に埋められていた杭5443本を掘り出した。当初建材としての利用を考えたが技術やコストの面で残念し、約1000トンのチップに加工して封筒やノートに再生する」こんな新聞記事が載ったのは昨年8月のことであった。この小さな記事に反応したのは全国でたった3人。その一人が田富町大田和の家具作家木楽舎荻野雅之氏である。彼は「直径30センチ、長さ15メートルのこの北米産のオレゴンパイン(米松)に新しい命を吹き込み積み木をつくりたい。樹齢100年、関東大震災や戦災を乗り越え、人目にも触れず腐ることなく丸ビルを支えつづけておよそ100年。まだ松ヤニを出して生きているこの材をこれからさらに100年、21世紀の社会を支える子供たちの豊かな心をはぐくむためにつかいたい」と提案した。そしていま、積み木づくりが始まろうとしている。 振り返ってみると、殖産興業を掲げた明治、高度経済成長をとおして追いつけ追い越せと近代工業国家に向かってひた走りバブル経済に酔った昭和、そして消えゆく泡を見つめ痛みを伴いながら混迷の中にある現在、効率を求め市場主義を追及するあまり人間関係は希薄化している。子供たちの世界では不登校、いじめ、学級崩壊、少年による凶悪犯罪など目を覆いたくなるような出来事が日常化している。大人たちが飲み食いにざわめき立つポールラッシュ祭の会場で、体を動かし、頭脳を働かせ、それらを総動員してギャラリーとのコミュニケーションを楽しみ、未知なるものの発見と創造に全身を打ち込んでいる子供たちは、あそびを満喫することをとおしてさまざまな力を磨きあげてゆく。たかが積み木である。しかし、子供たちに集中する時間と空間(居場所)と300年の物語をプレゼントできそうである。

(山梨総合研究所専務理事 早川 源)