山梨の未来ビジョン


毎日新聞No.102 【平成13年 5月 1日発行】

~多様な価値観、尊重する知恵~

 4月6日、山梨県から「山梨未来ビジョン」が発表された。これは、2025年の山梨の将来像を描くものである。その中心ともなるべきテーマは、「開(甲斐)の国-知恵の回廊」というものであった。ここで中心となっている「知恵」の意味を、私なりに考えたみたいと思う。
言うまでもなく、県民の価値観は多様化し、さらに新たな技術の発展により社会のシステムが急速に変化を遂げようとしている。それと同時に、依然として山梨としての個性(我々は「山梨”がら”」と呼んでいる)が人々の価値観の中に深く根付いていることも確かであろう。それは、個人が日常生活や仕事のなかで社会に対して積極的に意見を述べていく方向と、従来通りの地縁・血縁を中心としたコミュニティーで和を重視する方向という価値観の「幅広さ」として捉えることが出来るであろう。
また、山梨に限らず日本の伝統的な自然観や、自然と共生する価値観に対し、戦後の合理的な価値観というものが、少なからず自然環境へ影響を及ぼしてきたことは否めない。こうした価値観の「ずれ」が、様々な場面で矛盾や対立として表れているといえるだろう。
今、我々が「知恵」と呼ぶものは、自らの将来像を科学技術の発展やグローバル・スタンダードの流れに委ねることを意味するのではなく、むしろこうした流れに対して、我々自身がどのような姿勢をとるか、ということに向けられなければならない。その中には、20世紀にみられた開発や自然破壊、日常生活の利便性の向上と心の空洞化の問題など、我々自身が反省すべきことが数多くある。大切なのは、生活水準という定量的な価値観から、生活の質や美しさ、さらに幸せといった、必ずしも計ることの出来ないものへの理解を深めていくことである。
「知恵」とは、こうした思慮深さであり、それに基づく多様な価値観を互いに尊重しながら調整していくことだ。その延長として描かれる山梨県の未来ビジョンは、もはやひとつの「大きな物語」ではなく、多様な個人が思い描く「小さな物語」が重なり合うものかもしれない。それらひとつひとつが、異なる「山梨”がら”」としての光を放ちながら共生していくための知恵づくりを行っていくことが大切である。

(山梨総合研究所・主任研究員 佐藤文昭)