初めて知る役割の重さ
毎日新聞No.105 【平成13年 6月 5日発行】
~既存金融機関撤退の時~
先日、イトーヨーカ堂が中心となって設立されたIYバンク銀行が営業を始めた。主な収入源は貸し出しの利息ではなく、他行のキャッシュカード所持者がIYバンク銀行のATMを使った時の手数料という新しい発想の銀行である。このため、街に支店はなく、行員もいない。
昨年は、インターネット取引を軸としたジャパンネット銀行が開業し、今月には同様の仕組みを持ったソニー銀行が開業する。既存の金融機関にとっては、新たな競争相手が出現してきたわけであるが、金融機関がさまざまな形で地域活動を支えてきたことはあまり知られていない。
たとえば、基金を設けて地域の文化活動や福祉活動を支援したり、公的な機関へ人材を派遣したり、本業以外でさまざまな活動をしている。また、街の清掃を自主的に行ったり、祭りやイベントの裏方を担当したり、公共空間としてロビーを開放するなど地域コミュニティに係わる地道な活動も行っている。
一方、本業である融資分野においても、積極的に対応しようとする動きがここにきて出始めている。労働金庫では、一般住民にも市民権を得つつあるNPO(非営利組織)を対象に、昨年4月から「NPO事業サポートローン」の名称で専用融資の取扱いを始めたほか、同年5月からは奈良中央信金や金沢信金などでもNPO法人に対する専用商品の取扱いを始めている。
また、山口県にある西京銀行では、企業化支援のNPO法人と共同でまちづくりや教育、福祉の企業家に事業資金を融資する仕組みを開発している。このような活動を行っている金融機関は、すべて地域で活動する金融機関である。
前述のようなITを駆使した金融機関は今後次第に存在感を強めてこよう。しかし、行員、店舗のない銀行が増え、既存の地域金融機関が撤退していった時、「まち」はどうなっていくのであろうか。
長野県にある赤穂信金では、地元商店街の活性化を狙い、キャッシュカードと一体化したプリペイドカードを共同で発行している。地域貢献の形はさまざまであるが、新しい発想で設立された銀行には、西京銀行や赤穂信金などのような地域に根づいた地道な「まちづくり」はおそらく期待できないであろう。地域づくり、まちづくりにおける金融機関の存在は、われわれが普段感じているよりもはるかに大きく、また、期待も大きいのである。
(山梨総合研究所・主任研究員 村田俊也)