地方分権で自治体は変わったか
毎日新聞No.108 【平成13年 7月18日発行】
主体的な政策形成の動きも
地方分権一括法が施行され、一年余りが経過した。国が進める分権改革はいよいよ実行の段階を迎えたと言われているが、地方分権の担い手である地方自治体は変わってきただろうか。
ある全国紙が全国の市区町村長を対象に行った調査によると、「機関委任事務の廃止で行政運営や政策決定への影響は」という質問に対し、回答した市区町村長の約八割が「従来と特に変わらない」と答えたそうである。また、「国や県の関与の状況」に対しても約七割が「従来とあまり変わらない」と回答したという。
日本の地方行政にとって明治維新、戦後改革に次ぐ「第三の改革」とも言われ、マスコミなどでも扱われることが多いにもかかわらず、多くの自治体では変革の風を感じ取っていないようである。しかし一方で、分権化時代の到来を受けた新たな動きが各地でみられ始めているのも事実である。
全国に目をやると、先進的な自治体では、政策形成能力向上に向けた職員の意識改革や組織改革に取り組んでいる。また、独自の政策執行の根拠となる条例制定の動きもみられ、北海道ニセコ町の「ニセコまちづくり基本条例」などの自治基本条例をはじめ、環境保全や開発、市民活動などあらゆる分野において、独自の条例制定が進められている。
また、課税自主権が強化されたのを受け、法定外目的税導入の動きが各地で見られるようになってきた。県内でも河口湖町、勝山村、足和田村の一町二村が、全国の先進事例となる「遊漁税」をこの七月から導入しており、この他にも宅地や別荘地の開発などに対する独自課税の導入を検討している自治体もあるという。
去る六月一四日に小泉首相に提出された地方分権推進委員会の最終報告では、現在の分権改革の状況を登山に例えて「ベースキャンプを設営した段階に過ぎない」と表現し、自治体関係者に対して意識改革の徹底を訴えているが、先進的な自治体はすでにベースキャンプを出発し、地方分権の山を登り始めている。
分権改革は、地方自治体にこれまで以上の主体性と自己決定・自己責任の姿勢を求めており、税財源の移譲や地方交付税改革といった財政的な問題をはじめ多くの課題を残しているとはいえ、分権型社会の構築に向けた自治体間の競争は始まっている。目指すべき地域の将来像を描き、その実現に向けた組織の強化や条例制定などのアクションを起こさないと、第三の変革を感じないうちにその格差はどんどん開いていってしまいそうである。
(財団法人山梨総合研究所 研究員 小林好彦)