観光振興に望まれる関係機関の連携
毎日新聞No.116 【平成13年12月 6日発行】
参考となる寒河江市の取組み
山形県に寒河江(さがえ)市というところがある。人口4万4千人の農業都市で、果樹が農業生産額の半分を占める。
このまちは、「日本一さくらんぼの里 寒河江」を掲げて、さくらんぼをシンボルとしたまちづくりを進めてきた。徹底したこだわりで大臣表彰も受けているが、観光振興においても積極的な取組みが見られる。
観光への取組みは昭和40年代からの「さくらんぼ狩り」に始まったが、当初は観光業者に相手にされず、観光客がもぎ取り時に枝を痛めるなど決して順調ではなかった。しかし、昭和59年に周年観光農業推進協議会が設立され、組織力を生かした顧客対応、予約を基本とした営業活動、事務局の土日対応などを行った結果、昭和50年には年間1万人だった観光さくらんぼ園への入場者が現在では20万人を超えるようになっている。
以前は通過地に過ぎなかったこのまちが、なぜ観光拠点として定着するまでに至ったか。それは
①大手観光業者が取り組まなかった早い時期より地元バス会社が地道に県外からの誘客活動を行ってきた
②農園業者にサービス業であることの自覚を求め、農協が営農指導のみならず接客指導も行ってきた
③事務局の調整により農園への詰め込みを避け、観光客に十分な満足を与えることに心がけた
④協議会に関係団体を取り込み、観光客に食事処の紹介から、宿泊、地元芸能の鑑賞機会の便宜まで図った
⑤予約窓口を事務局に一本化し、農園業者の経営安定と観光客の信頼を獲得できた
⑥行政が基盤整備を行うとともに、マスコミに絶え間なく話題を提供した
など様々な努力が行われてきたことが挙げられる。また、通常観光とは関係が薄いとされる市民も大きな役割を果たしている。観光客が数多く訪れる「さくらんぼ祭り」へは大勢の市民が参加し、まさに「市民の祭り」となっているほか、地元芸能の観光客への披露では、市民サークルなどが活躍している。駅にも、市民憲章にも、市の歌や記念日にも、ガードレールにも「さくらんぼ」が使われる中で、「さくらんぼを通じたまちづくり」は市民に誇りを与えているといい、まさにさくらんぼの”里”日本一というところである。
観光振興は、ともすると関係者が孤軍奮闘しているのが実態ではないかと思う。そんな中で、市民も含め各機関が一体となって推進している寒河江市の取組みは、参考とすべき点が多いと言えるのではないだろうか。
(山梨総合研究所・主任研究員 村田俊也)