分権型社会の自治体のあり方
毎日新聞No.119 【平成14年 1月24日発行】
「合併しない宣言」を行った町に注目
市町村合併に向けた議論が全国的に活気付いてきた。
山梨県内でも新年が明けるのと前後して、合併市町村の枠組みを決めた任意の合併協議会の立ち上げや、法定協議会への移行といった話題が各地で持ち上がり、毎日のように新聞紙上を賑わしている。国による財政上の優遇措置などが受けられる平成17年3月の合併特例法の期限を前に、これまでのように市町村合併の必要性やメリット・デメリットを論じるというレベルから、この町と合併したら地域はどうなる、といったより具体的な議論が行われる段階になってきたようだ。
そうした状況がある一方で、昨年の秋、福島県のある自治体が「市町村合併をしない宣言」を行い、テレビや新聞などのマスコミでも報道され、全国の注目を集めている。合併しない宣言を行ったのは、福島県の最南端に位置する東白川郡矢祭町で、人口約7300人の町である。
この合併しない宣言については、同町のホームページでも詳しく紹介されているが、その内容を要約すると、「現在進められている合併推進は、国による押し付けであり、小規模自治体をなくすことにより国からの補助金、交付金を減らし、国の財政再建に役立てようとすることを意図している。市町村は自らの進路について、自己責任のもと意思決定する能力を十分に持っており、先人から享けた矢祭町をそっくり子孫に引き継ぐことが自分たちの使命であり、いかなる市町村とも合併しない」というもので、昨年十月末に開かれた臨時議会で、議員提案によるこの宣言の決議を全会一致で可決したという。
そもそもなぜいま市町村合併が必要なのかといったとき、多様化する住民ニーズへの対応や少子高齢社会への対応、効率的な行政運営による行財政基盤の強化などとあわせて、現在進められている地方分権の担い手となる市町村の体制の強化といった「地方分権受け皿論」がある。
しかし、これからの分権型社会においては、地方自治体には自らの判断と責任において、地域の特性を活かした主体的な地域づくりが求められているのであり、矢祭町は自らの責任において、町の将来の方向性として「合併しない」と判断したのである。
私の住んでいる町でも合併に対する議論が活発化してきており、合併の是非を含めた今後の成り行きが非常に気になるところだが、国が進める構造改革により交付税の見直しが打ち出されるなど地方自治体を巡る様々な状況の変化が予想される中で、あえて「合併しない宣言」を行った矢祭町の今後の主体的な地域づくりの姿に注目していきたい。
(山梨総合研究所 研究員 小林好彦)