犬も歩けば…


毎日新聞No.120 【平成14年 2月 5日発行】

~赤岡町まちのホメ残し隊の元気~

 「犬も歩けば赤岡町」という本を見つけた。帯紙には「この本売れたら風呂屋が残る!」とあり、本の発行者は「赤岡町まちのホメ残し隊」となっている。まちづくり会議などに使っている廃業した風呂屋が売りに出されたため、ワークショップを中心とする町民メンバーが、それを買い戻す資金調達の手段として出版した本らしい。本の中身は、ホメ残し隊のメンバ―が、まち中を歩き回り、お蔵や塀、看板など、普段は見過ごしてしまいそうな街角の風景をユニークな視点から取り上げ、写真とユーモアあふれるコメントでまとめた、一種のタウンウォッチング集である。
 この本を眺めているうちに、大阪の友人との会話が浮かんできた。あるとき彼は、「大阪の独身女性に対する『理想的な結婚相手』のアンケートで、第一位は何だと思う?」と聞き、「高学歴、高収入、高身長の三高ではないよ」とも付け加えた。私には想像がつかなかったが、その答えは「おもろい人」とのことであった。長くつき合う人なので、人間的に奥深い人、人情味のある人を求めると納得したが、それを一言で「おもろい」と言い表すところに関西弁の知恵を感じた。そう言えば友人と話していると、「その話のどこがおもろいんや」と突っ込まれることがある。関西人は、話の中に「落ち」すなわち「おもろい」がないと納得しないというのが友人の弁である。この「おもろい」は、「おかしい」というよりも「興味深い」「奥行きがある」というニュアンスが強く、枕草子にある「いとをかし」に近い意味らしい。
 先の「犬も歩けば…」も、町中の「おもろい」ものを取り上げ、それを見つめ直し、保存するまちづくり活動のひとつである。もともと町は人の集まる場所であり、いろいろな人が集まり活動を繰り広げ、その結果を時の流れが調和させて「おもろい」となる。やはり町は、そこに行きたくなる、その中を歩きたくなるところであるべきであり、それが活力の源泉である。
 本の中に「たたけば、ほこりの出る町」という参加者のコメントがある。「たいした町じゃない」という謙遜の意であろうが、「ほこり」は「誇り」でもあり、それを見つけ出した人々の元気証明である。この本は私に、どこの町にも必ず何か隠れたものがあり、それを見つけ出し見直すことがまちづくりの基本であることを思い出させてくれた。「赤岡町まちのホメ残し隊」の元気に敬意を表したい。

(山梨総合研究所・主任研究員 広瀬久文)