上流圏に育つ新たな活力に期待


毎日新聞No.121 【平成14年 2月28日発行】

 21世紀は水の世紀といわれている。

  本県にはその水源を守る上流圏地域に二つの研究所がある。
一つは、平成8年早川町に設立された「日本上流文化圏研究所」。 もう一つは、平成13年小菅村に設立された「多摩川源流研究所」。この2つの研究所は、早稲田大学、東京農業大学、東京学芸大学、山梨大学、山梨学院大学などの先生方の応援をいただきながら大学院生や地元研究員たちが地道な研究やフィールドワークを続けている。例えば、日本上流文化圏研究所では、下草刈りができなくなりその管理が危ぶまれている「水源環境調査」、地域の伝統食”すばく”などの発掘と伝承、養蚕、木工、染色などの技術や遊びの掘り起こし、「住民2000人のホームページの作成」「上流圏ライブラリーの整備」「日本上流文化圏会議の開催」などである。特に、日本上流文化圏会議は情報交換や未来に向けての地域の哲学を語り合う場となっている。これまで宮崎県の五ヶ瀬、北海道のニセコ、静岡県の本川根などで開催してきたが、この会議を契機に本川根町では木村尚三郎氏を名誉学長に「千年の学校」を開校している。タンポポのように早川発の試みが全国に伝播し新たな芽を育みつつある。上流圏では今年「まちづくり支援窓口」を開設、「あなたのやる気応援事業」を新たにスタートさせている。この事業は、町民から商品開発や新規事業の立ち上げなどに関するアイディアとやる気を募集し、研究所が資金の一部や情報を提供、研究員が一緒に考え、汗を流し実現していこうという試みである。3月24日の審査会では、長野県川上村でレタスの漬物を開発した渡辺桐子さんの講演を聴く。
 一方、多摩川源流研究所では、森と水をテーマに活動を開始。首都圏の水瓶として「自然保護」「生物多様性」「持続可能な循環型社会」などの研究をはじめている。川崎市など下流域との交流や「多摩川源流学校」「指導者養成講座」なども開催している。これらの活動は、まだまだ小さな試みかもしれない。しかし、市場原理に基づく経済至上主義的な価値観ではなく、人間が豊かに生きるための原点回帰への試みといえよう。

  「青春の終焉」とか「紅葉の時代」といわれ、世の中は混沌として悲観論が広がり価値観の変革が求められている。上流圏に育ちつつある新たな活力に期待したい。

(山梨総合研究所・専務理事  早川  源)