心が通う 税金


毎日新聞No.124 【平成14年 4月 2日発行】

~お金の循環、明示する必要~

 最近、各自治体の来年度予算の記事を目にすることがある。それをみてふと感じたことがある。それは、税金とは”冷たい”もの、つまり心が通わないものであるということだ。私のようなサラリーマンの場合、税金は好むと好まざるに関わらず自動的に”取られている”。実際のところ、自らの意思で”支払っている”という感覚はない。また、その税金を使っている自治体の予算の中には、毎年様々な主要事業が設けられているが、実際のところ、それがどのように地域の方向性や将来の姿と結びついているのか分からない。

 例えば、道路整備を例に考えてみたい。道路の混雑という問題を解決するには、二つの方法がある。ひとつは、道路整備を推進すること、もう一つは公共交通機関への転換などにより交通量を減らすことである。前者の場合、確かに渋滞は解消されるが、それによってさらに交通量が増加し、それにより歩行者の安全が脅かされ、自然環境や生活環境に悪影響を及ぼすことも懸念される。後者の場合、確かに自家用車を利用する人々にとっては大問題であるが、道路整備にかかる費用とそれによってもたらされる悪影響を考えた場合、検討すべき価値は十分にあると思う。しかも、道路整備により生活環境が悪化し、人口が流出してしまい、自治体の財政難にさらなる拍車をかける結果となるのであれば、何のための事業であるかますます分からなくなる。実際にはこれほど大げさではないものの、事業の先にどのような現実が待ち受けているかが見えにくいことも、税金を”冷たい”と感じさせているもう一つの理由であろう。

 では、なんとかして税金に”温かさ”をもたらすことは出来ないだろうか。そのためには、まずお金が循環していることを明らかにすることが必要ではないか。ある事業を行うことによって住民の満足度が向上すれば、それが定住人口や事業者数の増加、引いては税収の増加にもつながるだろう。さらにその税収の増加分が、住民のための新たな事業の財源となって還元されるのであれば、納得して税金を納めることが出来よう。このように、支払うことによって、たとえ少しずつであっても自分や家族の幸せがふくらむと実感できることが、きっと”温かさ”につながるであろう。
 とはいえ、現代社会において多様化する個人のニーズをすべて満たす行政サービスなど、もはや期待することは難しいと言わざるを得ない。だからこそ、住民参加等の機会を通じて、我々が共有できる幸せや次の世代の子供たちに残していきたい将来の地域の姿を描き、その実現に向けて行政が事業を行っていくことが重要である。同時に、我々が行政の限られた財源に何を期待し、また自らも地域のために何が出来るのかを本気で考えることも忘れてはならない。

(山梨総合研究所・主任研究員 佐藤文昭)