加速する生産の海外シフト
毎日新聞No.128 【平成14年 5月28日発行】
~高付加価値分野でも強まるアジア攻勢~
我が国の企業による製造拠点の海外シフトの動きが加速している。経済産業省「海外事業活動基本調査」によると、我が国企業の海外生産比率(=現地法人(製造業)売上高/国内法人(製造業)売上高(%))は、企業の海外移転が進む契機となったプラザ合意のあった1985年度には3.0%であったが、その後、着実に上昇し、90年度6.4%、95年度9.0%、2000年度14.5%(予測)となり、95年度以降上昇テンポが加速している。その後、01年度上期の対外直接投資実績(年率換算)も、中国向けなどが大幅に伸びたことにより、前年度を上回っていることから、海外生産比率は引続き高まっているものと思われる。
海外生産の進展に伴い、国内での雇用や生産活動などに大きな影響が出ているのは言うまでもない。同省「工業統計」で過去10年間を見ると、我が国の製造業の事業所数は、00年度には34.1万所と、90年度当時(43.6万所)に比べ9.5万所、22%も減少している。また、従業者数は90年度1,117万人から00年度には918万人へと18%減っている。この間、従業者数よりも事業所数の減少率の方が大きいということは、比較的規模の小さな事業所の閉鎖がより進んだことを窺わせるものであり、下請企業により大きな影響が及んでいることが見てとれる。
さて、こうした状況下、製造業の生き残り策として、①高コスト構造(人件費、電気料金、通信費、物流費、原材料費等が国際的に高水準にあること)の是正、②製品の高付加価値化などの必要性が従来から指摘されている。最近、一部有力企業において、企業業績が良好にもかかわらず、賃上げ抑制の動きが出て来ており、こうした動きが産業界全般へのメッセージになると見込まれるが、高コスト構造の是正のスピードをもっと上げていく必要があろう。
また、高付加価値化については、例えば、大画面のPDP(プラズマディスプレイ)が、価格低下もあり、今年の成長製品として期待されている。現在は世界のPDP生産量の9割を日本が占めるなど、日本が優位にあるが、このような高付加価値製品においても、既に韓国・台湾企業が参入しており、市場での日本の優位性はそう長くないと言われている。 高付加価値品といえども、アジアがすぐ後ろに来ているものもあるのである。我が国の企業は高付加価値化への取組みを続けざるを得ず、アジアとの距離を今一度、如何にして広げるか、国をあげて知恵を出していくことが喫緊の課題となっている。
(山梨総合研究所・調査研究部長 波木井 昇)