電力小売り全面自由化へ
毎日新聞No.130 【平成14年 6月11日発行】
~地域間格差、安定供給など課題に~
4月4日に開かれた総合エネルギー調査会の電気事業分科会で、委員の南直哉・電気事業連合会長(東京電力社長)が、家庭用を含む電力小売りの全面自由化を受け入れる考えを正式に表明したことで、電力業界は全面自由化へと動き出すことになった。これにより、早ければ2008年度には、一般家庭を含めた電力のすべてが自由化されることになる。
全面自由化により、消費者は電力会社を選択できるようになり、電気通信の自由化の際にみられたように、新規参入業者を含めた電力会社は料金競争を行い、世界一高いといわれる日本の電気料金は安くなると予想される。しかし、全面的に電気料金が安くなるわけではなく、参入業者の少ない地域では逆に料金値上げにつながる可能性もある。生活基盤として欠くことのできないものだけに、地域間格差が発生しないような方向で自由化を進める必要がある。
また、電力自由化の陰の部分に、環境悪化への不安がある。新規参入業者は、電源としてコストの安い石炭火力発電を選ぶと予想されるため、煤煙による空気汚染や二酸化炭素による地球温暖化など環境に対する不安は大きい。これまで各電力会社は地球温暖化への配慮から、原子力発電の比率を高めてきた経緯がある。また、京都議定書への対応もあることから、これまでの動きに逆行するような方向で自由化することには問題がある。とはいえ、多くの規制の伴った自由化であると新規参入が促進されず、自由化の効果が見られなくなってしまう恐れがある。
もう一つ大きな問題が存在する。これまで各電力会社は、発電-送電-配電と一貫した設備を有することで、世界一停電の起こらない電力供給システムを形成してきた。全面自由化により、発電、送電、配電の各部門を切り分けるという選択肢があるが、その選択肢を選択した場合、バランスを持って設備形成されてきた電力供給システムが崩れ、供給信頼度が低下する危険がある。IT化が進んだ現在の社会では、停電することにより様々な障害が発生する恐れがあることから、供給信頼度の低下はあまり好ましくないと考えられる。
2000年3月より大口顧客向けの電力の一部自由化が始まり、2008年度の全面自由化に向けて動き始めたわけであるが、全面自由化による電気料金の低下という光の面だけでなく、地域間格差の発生懸念、環境への配慮、電力供給システムのあり方などの複雑な課題に目を向け、最も適した自由化の方向を考える必要がある。
(山梨総合研究所・研究員 岡田 実)