スポーツ文化の醸成とは
毎日新聞No.131 【平成14年 6月25日発行】
~欠かせぬ生活への密着~
サッカー・ワールドカップ(W杯)に出場したカメルーン代表チームのキャンプ受け入れを終えて、地元の武川勉・富士吉田市長は、議会の所信表明の中でキャンプ受け入れを振り返り、「将来を担う青少年に対し、愛と誇りと自信を与え、スポーツ文化を根付かせる礎になる。」と述べた。また、Jリーグの百年構想の理念の一つには「豊かなスポーツ文化の振興および国民の心身の健全な発達への寄与」が掲げられている。
さて、ここで言う「スポーツ文化」とは何であろうか。 まず、広辞苑によると「文化」とは、「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果」と示している。かつて人間は、衣食住に関してより快適な生活を求めて、あらゆる知恵や道具を考え出し、さらには、より満足できる人生を送るために、美術や音楽といった芸術、学問、道徳、宗教、政治などを創り出してきた。つまり「文化」とは、人間が人間らしい生活を送るために編み出してきた産物と言えるだろう。その「産物」の中にスポーツももちろん入っているのである。「スポーツ文化」とは、「スポーツをしたり、見たりすることによって快適で心地よい豊かな人生を送ること」と言えよう。
このスポーツ文化を醸成するには、日々の生活の一部としてスポーツが地域に根差していることが欠かせない。先日、プロ野球のイースタンリーグの試合を小瀬球場で観戦する機会を得た。観客は内野席に限れば、7分ほどの入りで結構スタンドは埋まっていた。しかし、グラウンドに目を移せばプレーヤーは、ほとんど知らない選手ばかりだ。当然、応援にも熱は入らない。観客は、結構大勢いるのに熱気がまったく感じられず、ただ興行としてプロ野球の試合が行われているに過ぎないという一抹の寂しさを感じた。もし仮にもこの試合が、少年野球教室などを通して、地域に密着しているチームであったならどうであろうか。一度でも話をしたことがある選手がグラウンドにいたとしたらどうであろうか。全国的には知名度がない選手でも「オラが町と関わりがある、オラが町のチーム」として親しみがあれば、その選手に自分を同化させることができ応援のしがいも全然違ってくるだろう。次も行って応援してやろうという気も起きてくるものだ。すなわち、日々の生活により密着したところから文化は生まれる。そしてそこから、地域に活力・誇り・自信が生まれ、地域を愛する心が芽生え、豊かな人生を送ることへつながり、スポーツ文化は醸成されていくのであろう。
経済の停滞により、世の中がよい方向に動いていく、という実感がなかなか得られない今日、その分、自分自身が目・手・足を動かして生きている実感と楽しさを十分に味わっていくことが肝要だと思う。スポーツを通して「感動」を享受することが、日常生活の中に身近に感じられるようなスポーツ文化が早く醸成されることを期待している。
(山梨総合研究所・研究員 田辺 満)