「まちの起業家」創出がカギに


毎日新聞No.132 【平成14年 7月23日発行】

~地域産業の活性化~

 現在は「まちの起業家」の時代だという。これは、高度な技術的知識をもった理想的なハイテクベンチャーにばかり注目していたこれまでの創業や起業家支援の対策から、「まちの起業家」の誕生と成長発展により、経済の活性化を図ろうとする考えである。02年版中小企業白書によると、「まちの起業家」の多数の輩出が地域の発展に寄与した、80年代からの欧米の事例に学び、ハイテク(高度技術)ではなくローテク(一般的な技術)であっても、創業や経営革新の一つ一つが経済の活性化につながるというのである。これは、地域から起業家が続々と芽を吹き出してくる現象であり、地域に根づいた「萌業(ほうぎょう)」とも呼べるものである。
地方分権の推進が大きな課題となっている現在、地域に根ざし、地域に「埋め込まれた」企業活動や創業活動に関する議論は、特に多様な展開を見せている。しかし、そこに共通する考え方は、多様な組織-企業、産業支援機関、地方自治体、教育研究機関、NPOなどの間でのコラボレーション(共同作業)を重視するものであり、地域における経済活動や組織行動をネットワークとしてとらえていることにある。

 今まで、地域を主体とした企業活動や産業集積の優位性に対する考え方は、独自の天然資源、輸送や物流の利便性、専門的な知識や技術を持った人材、産業固有の専門的な設備などといった、いわゆる外部経済性といわれるものに焦点をあてていた。しかし、「まちの起業家」のあふれ出るような創出に見られるように、産業の地理的な集中による優位性は、地域内に立地する様々な主体-地域住民、企業、地方自治体、教育研究機関などが、地域社会や地域内の諸制度の中に埋め込まれ、その中で協調的な組織間のインタラクション(相互作用)が営まれるとき、最も効果が発揮されると考えられるのである。
これは、地域産業ネットワークと呼べるものであり、その具体的なモデルは、イタリア中部・北東部にある「第3のイタリア」地域の中小企業集積や、シリコンバレーにおけるハイテク企業集積などに見られる。「第3のイタリア」地域に代表されるネットワーク・モデルの特徴は、「柔軟な専門化」と呼ばれる産地内での組織間ネットワークの形成にある。「柔軟な専門化」とは、単一の工程に専門特化した中小企業群を、受注品の仕様によって柔軟に編成し、生産する方式である。その特徴は、生産ネットワークを最適化させるため、ネットワーク構成要素(中小企業群)を柔軟にコーディネートするオーガナイザーの存在にある。そして、産地内ネットワーク全体としてグローバル化を指向し、オープンなネットワークを構築している。

 今まで見てきたように、「まちの起業家」を多数輩出し、地域産業を活性化させるためのカギとなるポイントは、①組織間の協力的なインタラクション、②地域社会全体でのグローバル化への対応、③官主導からの脱却、④ネットワークを柔軟にコーディネートする組織の存在、⑤地域としての多様性と柔軟性の発揮、といった5つの項目が、相互に関連しながら達成されることに求められる。
グラフ

NO132-11980年の自営業者数を100とした欧米各国の新規企業創出状況(2002年版中小企業白書から)

(山梨総合研究所・主任研究員 田中史人)