「新市の姿」策定に参加を


毎日新聞No.136 【平成14年 9月 3日発行】

~市町村合併 歩み寄りが重要~

 合併市町村への優遇措置を盛り込んだ合併特例法の期限(2005年3月)まで3年を切り、山梨県内で合併に向けた動きが一段と活発化してきた。2002年8月の時点で、9地域39市町村が合併協議会に参加しており、このままでいくと市町村の数は、64から34に減ることになる。
それでは、なぜ、ここにきて合併の動きが活発化してきたのであろう。
 
 一般に地方交付税は合併しない方が有利な制度であるといわれる。合併前の複数市町村分の交付税が、合併後には1市町村分になるからである。そこで、急激な減額を避けるために一定期間交付税額が維持される特例制度が作られている。これを「合併算定替え」という。この制度により、交付税額は合併後の10年間に限り全額維持されるが、その後段階的に減少し、16年後からは1新市(町)分に戻ってしまう。これでは、どこの市町村も合併を推進することはできない。
 そこで、総務省は合併特例債という制度を用意した。かねてから公共事業を拡大させてきたと指摘されている地方交付税の「事業費補正」とほぼ同じ手法である。新市(町)にとって合併特例債は大変魅力的な制度で、簡単に説明すると、借金の規模によって異なるが300億円の新たな借金の場合、その約3割の90億円程度を返せばよいという内容のものである(残りの210億円は国が返すことになるのだが)。市町村は、この制度を利用することによって夢のような将来ビジョンを描くことが可能になった。
一方、自主財源が乏しい市町村は、事業費補正の見直し等による交付税の減額措置を受け、歳入の規模が縮小した。ところが、公共下水道事業等のインフラ整備をはじめ、福祉、教育などの課題が山積され、歳出の規模が拡大し「予算を組めない状態」に陥ってきた。ここで初めて、合併のメリットと市町村の台所事情が一致したため、行政主導において合併協議会が設置されたのである。
ここで注意しなければならない点がある。ほとんどの合併協議会は、住民発議ではなく行政主導で設置されている。つまり、合併する各市町村の住民相互、あるいは住民と行政が一体となって将来の新市(町)を建設する目的で発足してるわけではないという点である。行政が、山積した課題を解決する手段としてのみ「合併」という政策を利用したとしたら、16年後の新市(町)には、合併特例債の90億円の元利返済のみが重くのしかかってくることになるであろう。
そこで提案したい。合併後の将来ビジョンを考えていく上で、住民の参加は不可欠であり、このことを行政は積極的にアピールする必要がある。「合併後の将来ビジョンの策定に、あなたも参加してみませんか。」・・・こういった提案がなされるような新市(町)の将来ビジョンには、バラ色の構想が描かれることであろう。
さて、住民に問いたい。果たしてこんな夢のような楽しい仕事を、行政だけに任せておいてよいのであろうか。

 合併は、隣近所の他人が家族になるようなものであるから、地域のエゴを通すだけでは健全な新市(町)の誕生はありえないし、バラ色の将来ビジョンも描けない。お互いに歩み寄り、補完し合いながら、よりよい関係を模索していくことが重要である。

(山梨総合研究所・研究員 赤尾 好彦)