創意で地域おこし


毎日新聞No.137 【平成14年 9月10日発行】

~合併しない早川町 「やる気応援事業」~

  “あたしんとうが燃えなけりゃあ、まちは元気にならんちゅうこんだよね・・・・”7月5日NHK甲府放送局が制作したTV番組「あなたのやる気応援事業」に登場したある主婦の言葉である。地方分権一括法が施行されて2年、全国の7割の市町村が合併論議に花を咲かせている中で、早川町の日本上流文化圏研究所は、「あなたのやる気応援事業」をスタートさせた。
 
 この事業は個性ある山村を再構築しようとする実験事業である。地域の資源を掘り起こし、町民の”やる気””アイディア”を実現していくために多少の助成金と研究所の人脈を生かして町民との共同事業を展開しようとするもの。さて、19のプロジェクトが持ち上がったが、その内容は先祖代々原種を守り続けてきたという早川特産の「茂倉うり」の普及販売、「柿渋」を使った趣味の扇子や団扇づくり、草木染めの土産品づくり、地域の伝説や民話などの「絵本づくり」、歌曲「早川の四季」の制作とCD化など多彩である。これらはコミュニティビジネスとも言えないほど小さな活動であり挑戦かもしれない。しかし、模造紙に企画案をまとめて発表した審査会には熱気が立ち込め、応募者たちは捨てられていたレタスを活用してジュースや漬物を開発した長野川上村の渡辺さんの体験談に聞き入っていた。地域の資源を見直し一人ひとりがリスクを認識しながら目的を持って事業に挑戦すれば、おのずからまちに活気が出てくるにちがいない。
20年後のわが国は、人口1億790万人(14%減)、労働力人口5470万人(19%減)になる。人口の減少は厳然たる未来であり、早川町だけの問題ではない。合併すればすべて解決するというわけにはいかない。人口減少社会を豊かに生きるには、まず経済価値だけを追い求めようとするのではなく、地域の誇り、労働の誇りを見直さねばならない。また、一人ひとりの時間価値の増大に目を向けるべきである。これからの社会は意外にも芸術文化が花開く時代かもしれない。もう一つは、瀬戸内海の豊島の例を見るまでもなく、搾取型や依存型、無関心型の住民ばかりが集まれば、過疎地でなくても地域はたちまち崩壊してしまう。毎日の生活の現場こそ豊かな生活を育む場である事を忘れてはならない。

 まちづくりの真価は、自分たちの地域を自分たちでコントロールする自前の手段をたくさん持っているか否かにかかっている。この主婦の言葉に象徴されるように早川町が合併せずに”単独で行く”と決断した背景には町民意識の高さがある。お上依存の体質や意識を変え、意欲的な住民力を育ててこそ豊かで幸せな地域づくりと言えるのではないか。

(山梨総合研究所・専務理事 早川 源)